45-4話
姫香が促すと、ヒロミは一息置いて話し始めた。
「アトランティス大陸が沈んだ時、私たちは宇宙に出るつもりでした。しかし、王の次男だけは地球に残ると言ったのです……」
ヒロミはとつとつと話した。
すでに発展した文明との衝突を恐れたアトランティス王が、辺境の日本を選び、そこに次男を降ろしたこと。そこで10年ほどくらし、オオモノヌシが神格化された後、宇宙に出たこと。船の中で王が亡くなり、後を継いだ長男が地球に戻ることを望んだこと。戻ってきた地球は数百年の時が経っていて、次男がつくった国は崇神天皇に奪われていたこと。それに対し、ジングウが国譲りを要求、草薙剣を使って復讐を図ったこと。それをスクナビコナが阻止したこと……。
「オオタタネコは、あなただったのね。……なんだか信じられないけど……」
「すべてを信じるか、何も信じないか、どちらかです」
ヒロミの声が凛とした。
「そうね。私、信じます」
そう答えると、ヒロミが再び語りはじめた。日本武尊が草薙剣を使用したために命を縮めたこと。ジングウが仲哀天皇の
「どうしてジングウは船の中に閉じ込められていたの?」
「神功皇后となった彼女は横暴でした。彼女は自分が王となって人類を支配しようとしている。私とオオナムチはそう察し、拘束、考え改める時間を与えたのです。その時、予想外の戦闘になってしまいました。それで機関が致命的な損傷を受けたのです。私は、目覚めた彼女が考えを改める、それは奇跡でしたが、そうなることを願っていました。たった5%程度の確率でしたが……」
ヒロミがアトランティスの物語を語りはじめてから、長い時が過ぎていた。彼女はたびたびホッとため息をついた。まるで人間のように……。
太陽が高いビルの陰にあって、肌寒さを感じた。
「でも、そうはならなかったのね」
「はい。見ての通りです。……ジングウと共に、船を解体するのが夢でした。ずっと、あの船を無事に解体するためだけに生きてきました。おかしいでしょうか。ボク、いえ、私が生きてきたなんて言うのは?」
「いいえ、そんなことないと思うわ……」
姫香から見ても、彼女は、もちろん以前の比呂彦も人間と同じだった。
キャンバスをこちらに向かってくる吉本准教授の姿があった。
「先生、こんにちは」
ヒロミが声をかけた。そうしてしまってから、シマッタとでもいうような感情豊かな表情をつくった。
声をかけられた吉本准教授もキョトンとした。彼は少し腰をかがめてヒロミの顔を覗き込んだ。彼女が生物という意味での人間ではないとわかるのだろうか?……姫香はすこし不安になった。
「どこかで会ったかな?」
彼の質問には、姫香が応じた。
「私が吉本先生だと話したからです。お帰りですか?」
「あ、うん。それじゃ」
彼はヒロミに未練ありげのようだった。遠ざかりながら2度3度、振り返った。
「バレた、かな?」
「大丈夫だと思うわ」
姫香は、彼と同時に自分も慰めて話を戻した。
「あの船を処分するだけなら、いくらでも別な手段があったのでしょう?」
「もちろん。ジングウを乗せたまま太陽へ突っ込むといったことをオオナムチが提案しました。けれど、カガミノ船はアトランティス王の、人類の遺産です。それを勝手にないものにしてしまうのはどうかと思いました。それで私は反対したのです」
「あなた、ジングウが好きだったのね?」
「好き?……そんな感情はボクには……」
彼女の瞳が揺れていた。
「ねえ、立って」
姫香はヒロミの手を取った。立った彼女を、ギューッと抱きしめた。
「アッ、止めてください。みんなが見ています」
耳元で声がした。
「周囲がどう見ようとかまわないじゃない。私ね、後悔しないように、大切なものは離さないことに決めたの。どう、ドキドキしない?」
比呂彦にもそうしておけば良かったと思っていた。
「します」
「私もよ」
「でも、私の身体はジングウです」
「身体なんて関係ない。中身のあなたが好きなのよ」
姫香がキスをしようとするとヒロミが拒んだ。
彼女のブラウンの目を見て言った。
「私は王の子孫なのでしょ? 守ってちょうだい」
唇を寄せる。今度は抵抗されなかった。
(了)
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神々の船と修羅 ――全裸の美女は神功皇后を名乗り、国民を扇動して政府転覆をもくろむ。彼女を止めることはできるのか―― 明日乃たまご @tamago-asuno
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