020 正しいつながり

 ディーノはガバッと革袋の口を開け、その中身を見せつける。入っているものは彼の言う通り金貨・金貨・金貨……! 詰所の天井に吊るされた質素なシャンデリアの光を受け、すべてのコインが輝いている。


「当然すべて本物でございます。ご要望とあれば専門家を呼んでこの場ですべてを再チェックしても構いません!」


「いや、そこは疑ってないんですが……。これは相当な価値があるのでは……?」


「相当な価値がなければ愛娘の命を救ってくださった方に対するお礼にはなりません!」


 娘ハルシュへの愛……。彼は商人だが、お金よりも大切なものを持っている。だからこそ、彼は商人として信用できるのではないかとラスタは思った。


「……ハナビ、領民から税ではなく直接的な金を受け取ることは問題ないのかな?」


「そりゃ次期侯爵様だもの。少なくとも『差し上げたい』と懇願こんがんする市民から金を受け取ることに問題なんてないさ。ただ、その献金を理由に一部の領民だけを特別扱いとかし始めると、いらぬ不信感を生みかねないけどね」


「なるほど……」


「ちなみに私たちのような侯爵家に仕える騎士や貴族は、領民から直接的に金品を受け取ることを良しとされていない。受け取る際はあくまでも侯爵様に献上するものを預かったという認識で、それを侯爵様に報告して許しを得た時だけ自分の懐に入れることができるのさ」


 とはいえ、少額の金やちょっとした物品のやり取りは、どの領でも見逃すのが通例になっている。ただし、騎士や貴族の側から領民に大金を要求したり、場合によっては金を払わなければ仕事をしないと領民を脅す者もいる。


 そういった者たちを裁くのも、領地の頂点に立つ侯爵の仕事なのだ。


「では、ありがたく頂戴します」


「受け取っていただけますか……! ありがとうございます!!」


「いえ、こちらこそ感謝します。このお金はいろいろあってぶっ壊してしまった城壁の修復や、跳ね橋の鎖の交換などに利用しようと思います」


「私のお金が領地の象徴たる城を癒すために……ッ! そうだ! 城の修復でしたら良い建築業者を知っております! そこはかつてシルバーナ城の建設に関わったとされる老舗で、よろしければ私の方からそういった依頼があると連絡を入れさせていただきますが……!」


「かつて城の建設に……。では、その方に依頼をお願いします。俺はそういう建築とかに関わりのない人生だったので、どの業者が良いとか悪いとか全然わからないんです。でも、あなたのオススメなら問題ないかなと」


「ええ、それはもう建物を造ることに関しては信頼できる者たちです! 少々偏屈で職人気質な者も多いですが……腕前は確かです! 明日の早朝にでも城へやって来て修復箇所を点検した後、予算や修復プランを提示してくれるはずですので、ラスタ様はただ城でお待ちいただければ問題ございません!」


「それはありがたい。楽しみに待っています」


 ハナビの挑戦状を受けたことから、領民の救出およびB級指名手配犯の確保につながり、最終的には城の破損個所の修復まで話が広がった。


 人と人とが正しくつながり続ければ、豊かなシルバーナを作り上げることも不可能ではないだろう。今はほんの始まりに過ぎないが、少なくとも今日という日は希望が生まれた1日だった。


「では、私たちはこれで失礼いたします。重ね重ね本当にありがとうございました」


 親子揃って詰所を出る。ハルシュは最後にもう一度振り返り、ラスタに尋ねた。


「また……ここに来てもいいですか?」


「ああ! 困ったことがあってもなくても大歓迎さ! 美味しいジュースを用意して待ってるよ」


「では、お忙しくなさそうな時を見計らってまた来ます! ありがとうございました、ラスタ様!」


 跳ね橋の前まで来て親子を見送る4人。ラスタ・シルバーナ、ハナビ・ローゼンマイヤー、モス・アラモス、そしてクロエ。


 見送りを終えた後、4人はドッと押し寄せてきた疲れと戦いながら詰所の中へ戻った。全員がいつも以上に働いたのだ。後は柔らかなベッドで眠れれば文句なし……。


「遅くなりましたラスタ様! まさか葬儀に関する相談がこんなにも長引くとは……」


 遅れてやって来た政務官カスペンは、詰所内の一仕事終えた空気を感じ取り、恐る恐る尋ねる。


「まさか……何かありましたか?」


 4人は顔を見合わせて苦笑い。代表して答えたのはラスタだった。


「まあ、かなりいろんなことがあったね!」


 この後、ラスタたちは普通にカスペンに怒られた。

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鋼鉄領主の領地改革 ~体が鋼に変わる呪いを受け追放された侯爵家五男、呪いを鍛え上げ最硬の肉体で成り上がる~ 草乃葉オウル@2作品書籍化 @KusanohaOru

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