第20話 最後の奮闘

 マクドネルの背後にいる組織の詳細は、雷鳴から聞いた。

 その上で、色仕掛けに弱い幹部をフィアンに探ってもらう。


 アリケル様が公衆の面前に出るのは、オペラ座の観賞だ。

 オペラ座の歌い手たちに賞が授与された後に、ひときわ大きな貴賓席から今代アス モデウスに挑戦する旨を述べるのだ。

 淫魔領一規模の大きなオペラ座なので、宣言は瞬く間に広がるだろう。

 その後はほぼ淫魔領の連中が敵に回る為、決闘は素早く行われる事になっている。


 俺の仕事はそれまでにアリケル様に害を及ぼすものを消す事だ。

 つまり、マクドネルと、その背後にいる組織である。

 正直、レイズエル様が出た方が早いのではないか?

 

 とそう言ったら「アリケルにずっと私がついている訳にもいかないもの。今から優秀な部下アピールをして欲しいな。その部下としての確固たる地盤は。あなたの上の娘、ライブラちゃんに引き継がれるでしょうからメリットは十分あるはずよ」


 娘愛がないと言えばウソになるし、魔界ではまだまだ活動する。

 次代に魔界から出るつもりだが、今代魔帝陛下はまだまだ御世が続きそうなのだ。

 次のアスモデウスに気に入られておくのは、はっきり言ってとても美味しい。

「アリケルは身を挺して自分を庇ったものを、取り立てないほど狭量じゃないわ」


「わかった、わかりましたよ。裏で暗躍していた者どもを挙げて見せます」

「ありがとう、アルちゃん」

 ここまでは一昨日の会話である。アリケル様のオペラ座観賞まであとすこし………


♦♦♦


 2日後。裏の情報となるとフィアン任せなので、じりじりして待っていた。

 専用の電話が鳴った。俺はそれに大慌てで出る。

「フィアン?どうだ?」

「ああ、バックにいる組織の名前と実態が分かった。うちにおいで」

「すぐ迎えを寄越してくれるか?」

「ああ、ガンザルに行かせるよ」


 俺は用意する事にした。昨日のうちに準備していたのだ。

 フィアンの趣味を今まで分析した結果、ショートよりロング(スカートの丈だ)が好きなことが判明しているのでサービスだ。

 なので濃い紫に、スカートに赤紫の宝石がグラデーションのように広がる一枚を用意した。土産はコヒーバの最高級葉巻だ。


 待っていると、1時間もせずにクラクションの音が表から鳴り響いた。

 久々のフェラーリ、250カリフォルニア・スパイダーであった。

「ボンジョルノ・シニョリーナ」

「ボンジョルノ・ガンザル」

 運転手にはまずしない事だが、俺はガンザルにハグし、ほっぺにキスを落とした。


「いやはや、シニョリーナにオトされる男の気持ちが少しわかりましたぜ」

「最近は女にしか手を出さないけどね」

「例の御仁のせいですな、男として苦情申し上げたいが、それほどの男と巡り会えたシニョリーナにはおめでとうと言うべきでしょうな」

「あはは、ありがとう」


 そんな会話をしているうちに、ペルヴェローネ・ファミリーの地所に着いた。

「やあ、フィアン、お土産」

「グラッツィエ、アルヴィー、いつも気が付くね」

「習慣になってるからな」

「まずは昼食を―――」


 ここの昼食はコース料理だ。前菜から始まって、スープ、パスタ、ピザとデザートが出る。普通のイタリア人は、仕事場が近ければ家で食べるか、そこらのバール(バーに近い)で軽食を食べたり、切り売りしてるピザを食べたりして済ますそうだ。

ここでは構成員たちは、食堂で昼食をとるそうな。


「で、そろそろいいかな、フィアン」

「ああ、いいとも。バックについているのはベラドンナ、という裏組織だった」

「………聞いた事がないな」

「かなり用心深い組織だったよ。でも、3人いる頭はどれも今代アスモデウス様の呪術は受けてない。なのに交代を阻止しようとしているのは、今代アスモデウス・リュシアン様が犯罪組織に対して、全く取り締まる意欲を見せていないだろう?そのせいで交代を嫌がってるんだと思うね」


「何度か提言はしたんだ。でも放って置けって言われてな―――」

「リュシアン様には本当に淫魔領を治める意欲がないんだな」

「うん………それが俺がアリケル様の肩を持つ理由の一つだよ。レイズエル様が紹介してくれた人だ。きっちりやってくれると思ってる」

「わかった、次の話に移ろう」


「アルヴィー君はどういう作戦で行こうと思ってる?」

「頭の中に女は?」

「いるよ、奴隷の大元締めモリスンだ」

「なら、それはたらしこんでみせる」

「他の男の頭のうちの一人には、エリュールを当てる事をお勧めするよ」

「男色家か?」

「その通り、筋金入りのね。理由はそれだけじゃない。それは麻薬絡みの頭だ。そしてエリュールは、食ったものを自分のものにすることができる」

「ということは………」

「情報を流させ、マクドネルも追いこむ事ができる」

「よし、分かった、エリュールに頼もう」


♦♦♦


 俺の方は順調に行っていた。モリスンが女性が好みでない事は分かっていたのだが、変装ついでに男装の麗人で攻めてみたら、結構あっけなく落ちたのだ。

 後は時間をかけて快楽の虜にし―――とは言っても時間はあまりないから時間間隔を100倍ほどに引き延ばす術をかけて―――最後には次代のアスモデウスのために、自分も働きたい、というまでにする。

 部下まで手に入ってホクホクだが、戦闘系の頭をどうしようか?と言ったら、それは自分が篭絡済みだという事。マジかよ。


どうやらこの組織、権魔系の麻薬を扱う頭がトップだったようだ。

非合法要素を抜けば、この件が終わったら俺の組織にできそうである。

ライブラ(上の娘)とベーゼ(下の娘)にでも任せてみようか。

モリスンという教育係も得た事だし………

モリスンに聞いてみると、時々抱いてくれるなら………という事だった。問題なし。


で、エリュールの方だが………2人きりになってすぐ頭から丸呑みにしたそうです。

念話で連絡すると「美味しかったよ。本体も、情報もね」と返ってきた。

「でー、お前的にはどうするんだ」

「うん、どりあえずマクドネルは次に失敗したら命はないと言っておいた。場所はかねてからセッティングしてたオペラ座だ。その歌い手の賞を描いて封入した封筒に起爆スイッチが入ってるから、なんとかしないとね」


「お前が食ってしまうとかできないの?」

「レイズエル様が望んでるのは忠臣としてのアルでしょ。俺はこいつの商売を徐々に清浄化していくから、オペラ座では頑張ってね」


♦♦♦


 この1日、俺はレイズエル様に頼んで、爆発物の勉強をするべく「時止めの部屋」に入っていた。悪魔や天使が修行の必要がある時に、時々使う高位の施設である。

 この中で何万年修行をしていても外で過ぎた時間は秒に満たない。そんな部屋だ。

「爆発物のプロになった気分です………」

「うん、アルちゃん気分じゃなくて本当だからね」

「精気が何故か差し入れられてたんですが?」

「居るだろうと思って置いといたのよ」

「はい………感謝します」


「あと、オペラ座の歌い手の賞を授与するの、俺にしてもらえます?」

「もちろん。言い出すのを待ってたわ」


♦♦♦


 そんなこんなで、当日。

 俺は舞台の裾から賞の入った―――ちなみに賞はアリケル様が決める―――封筒を守って待機だ。起爆装置とは言っても、ただ単に電波で、このオペラ座の地中にある巨大なエネルギー炉を暴発させる仕組みなのだが―――仕組みはもう頭の中に叩き込んである。マクドネルが持ってる予備も無力化済みなのだ。

 わざわざ封筒を守っているのは、マクドネルに対してのポーズである。


 さあ、まずは授賞式の時間だ。

「○○さん―――可憐な小鳥賞(1番下)」「○○さん―――ハーピィ賞(中ぐらい)」

……… ……… ………

 ここで俺は1位の赤い封筒をくしゃくしゃっとして呑み込んでみせるパフォーマンスをやった。え?え?と受賞者は困惑していたがすぐに懐からダイヤモンド色の封筒 を出し「○○様―――セイレーン賞」と渡す。

 割れんばかりの大歓声。

 

 マクドネルは貴賓席で何かのボタンを押しつつ焦っている。無力化済みの予備だ。

 俺は舞台を引っ込むや否やエネルギー炉の方に急いだ。

「マグドネル、ここで会ったが百年目だ(時止めの部屋のせいで万年ぶりになっているが!)いい加減決着をつけよう。アリケル様を狙ったんだろう!?」


「それぐらい最初からわかっていただろう!なぜ俺に手を下すのがお前なんだぁ!」

「あ?そんなの手柄を立てさせようとみんなが動いてくれた結果だろ」

「お前だけは絶対に許さん!ここで葬ってくれる」

「―――キリサキの弾幕!」

「―――!?」


 目の前を埋め尽くす短剣の壁。それでも参ったと言わなかったので四肢を切り落として、さらに首をいこうとしたところで「やめてくれ」との一言が。

 エネルギー炉を完璧に破壊した俺、したマクドネルと舞台袖に帰る。

 すると、何かスピーチの最中だったアリケル様が俺に気付き、こいこいと手招き。

 マクドネルを連れてこいとの事だったので、何かと思って引きずっていく。


「見るがいい!こいつが妾の1の部下になる人物ぞ!バンク・オブ・マモンでも、ここでも見事に妾を守ってくれた!さすがの器量よな!」

「ええっと………表淫魔領の運営を預かる、アルヴィーです。淫魔領民ですがアリケル様のお味方をすることになりました」


「ざわざわざわ………パチパチパチパチ!」

「では妾は今から今代ベリアルに決闘を挑むこととする。立会人を望むものは妾と同行するがいい!」

 うっわ、行かなきゃいけなさそうだけど、すっごい気まずい。


♦♦♦


 気まずい時間は、ひと時で終わりをつげた。額と心臓を貫かれて倒れ伏すリュシアン様。側近たちがこの世の終わりのような声を上げ、殉死するものも出てきた。

 ちなみにレイズエル様はいない。裏でやる事があるんだとか。

「妾は狭量ではない、立派な葬儀と墓を用意しよう」

 そう言って相手への気遣いを見せるアリケル様。

 説得はしばらく続き―――俺はアリケル様の言を実際の物にするため走り回ったのだった。


 だがアリケル様の統治により、淫魔領はアスモデウスを中心にした強力な領地になった。多少権魔の勢いが強い。

 が、アリケル様の着任の経緯からして仕方ないだろう。

 俺は表淫魔領に限らず広範な権威をふるえるようになった。

 闇や裏に関しては関わる気がないので今まで通りだが外交や、エンターテイメントの部署も任せてもらえるようになったのである


 アリケル様に賭けて良かった。

 他のレイズエル様との約束もあるし、これからもよろしくお願いします。


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この魔界に愛の手を フランチェスカ @francesca

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