青い花の色 (後)

 

 わたしは嫌われ者だった。

 因縁の絡んだ妾腹の子だったからだ。いつも云われた。あの子はあの母親の子。

 誰かがそう囁くと人はさーっとわたしの周囲からいなくなった。

 男の人はわたしにまあまあ優しかったけれど、かなり下心ありだった。物陰に何度も引っ張られていった。領主の子だと分かると解放されたが、でも妾腹の子だろ、と捨て台詞がついてきた。

 正嫡の子たちより上に立たないように、この世で一番の嫌われ者だと小さな頃から何度も云われた。わたし以上に嫌われていた母さまが死ぬとさらに云われた。

 メリー。そう呼ばれる時はきまって、彼らがわたしにこの世で一番の嫌われ者であることを教えようとする時だった。

 それがわたしのあだ名だったのだ。

 実家に誤解があるといけないので云い添えるが、いいひとも沢山いた。ただわたしの母さまが人に後ろ指をさされるような形で領主さまと結ばれたので風当たりがきついところはきつかった。

 この世で一番の嫌われ者。なんだかすごい。愛されてはいけない烙印のようだ。

「そんなに痛くないから」と私は云った。

 若がわたしの腕を気にして見ていた。若が暴徒の腕に振り下ろした鞭がわたしの腕も少し掠めていたのだ。後で冷やしておこう。

 帰り道は夕陽と一緒だった。長い影が土の道についてきた。

 例の、性欲衰えぬ処女好きの妄執じじいが、執念で再度わたしを新妻に欲しいと云ってきたらしい。それが三つ目の若の話だった。

 こちらとの関係も落ち着きを取り戻していた。わたしが此処にいる必要はなくなっていた。元々そういう話だったのだ。実家は承諾した。わたしは、変態じじいの嫁にされることになったのだ。

「あまりいい噂をきかない」

 若は云いかけて口を濁した。

 変態じじいの許に嫁いだらわたしは変態じじいの許でおかしな恰好をさせられたり、じじいを風呂で洗ったり洗われたりするのだろう。十代の処女を妻に迎えると室から出さずに暮らさせるという話だった。

 畠のど真ん中で泣けないのならば、わたしは何処で泣けばいいのだろう。城に居れば何処にいてもひと眼があるのだ。これからは遠乗りに行く時も若が一緒だから外で泣くわけにもいかない。笑えば男に媚てると云われ、怒ればほら性格が悪いと云われ、楽しめばそんな資格はないと云われ、哀しめば嘲られて喜ばれた。ついに泣くことも出来なくなってしまった。

 わたしが編み出した方法は室に誰もいない時に口を半開きにして呼吸しながら涙を流すことだ。これだと音があまりしない。餌を欲しがる魚みたいな姿だ。でもこうしないと少しでも口を閉じると嗚咽が洩れてしまう。油断していると苦しい呻き声を出してしまうから自分で何とかしなければならなかった。どうせ変態じじいの城に行っても何度も泣くことになるのだ。今から習得しておけば何かの役にたつ。



 遠乗りには必ず若が附いてきた。若さまが一緒だと領民は若さまに対してお辞儀をするだけで、仮に内心でおもしろくない感情を持っている者がいたとしても、わたしに対して露骨な態度を取る者もいなかった。

「市場に行ってみるか」

 若に云われて歓んで附いて行ったら、若は泥棒をしていた。勝手に屋台からひょいひょいと物を取るのだ。

 蜂蜜水だの焼き菓子だのをわたしの手に渡してくれながら、「俺の家の領地のものは俺のものだから」と若は事も無げだった。

 盗ってるといっても微々たる量だし、向こうからも「若、今日の出来栄えをみて下さい」とにこやかに渡されるし、これでいいみたい。

 かと想えば、ちゃんとお金を払うこともあった。値の張るものや貧しい人のお店にはお金を払っていた。

「欲しいものがあれば云えよ」と若が云うから、砂糖漬けの生姜を食べながらしばらく悩んでいたら、「遅い」と云われて帰ることになった。

 遠乗りだけでなく、若と一緒に洞窟探検や、川で釣りもした。焚火を熾して釣った魚も食べた。

「男が刺繍や機織りに誘うわけないだろ」

 若は男の子が遊ぶようなことにばかりに誘ってきたが、わたしは楽しんでお付き合いをしていた。朝早く「メリー!」と窓の下から若が呼んで誘いに来るのだ。たまには「メリー今日俺いないから」とだけ断りに来る時もあった。そんな時の若は父親の領主さまと一緒に何かの用事で出て行った。少しずつ簡単なことから若が領主代行を任されていた。一度「今日は伯爵ご夫妻に逢うんだ」と云って国王から領地を拝領した辺境子爵家らしいきれいな衣裳を身につけていた。釦の数と麗糸のひらひらに若は文句を云っていたが、少し粗野なところがかえって引き立っていた。わたしがふざけて差し出した片手に、「めんどうだな」とぼやきながらも、次代の領主さまはまずまず合格点をあげられる所作で貴婦人への接吻してくれた。

 若が男友達と大勢で遊びに行く時もわたしは蚊帳の外におかれた。べつに逢わせて欲しいとは想わないけれど、紹介くらいはしてくれてもいいのに。

「それは駄目だ」

 若はびっくりしたように云った。

「誰かがお前のことを好きになったらどうするんだ」と応えたから、わたしの方が愕いた。

 森の中のせせらぎを渡る時に若が手を差し出した。はだしになって水の中の冷たい丸い石を踏んだ。

「若、ちいさな鳥」

「あれは鶺鴒」

 水面のさざ波に小さな光がたくさん集まっていた。空から落ちて来た星屑を踏み分けているようだった。

 若の後について渡りきると、若がわたしの顔の横の髪を指に巻き付けてきた。お返しにわたしも若の髪を指につまんだ。そのうちどちらともなくお互いに顔を寄せて軽く口づけした。この程度のことは同じ年の子たちの間でたまにある挨拶だから気にもしなかった。一瞬だけ。他の男の子たちともやっている遊びみたいなものだ。なのになんとなく、いつもと違った。わたしたちは十六歳だった。

 帰り道、小さな子どもたちがお花がいっぱい咲いている野原で駈けまわっていた。変態じじいのお城に行けば、わたしは奥方として髪を結い上げ、ほとんど城の外に出ることはなくなる。若と遊んでいるこの日々は後からとても大切な想い出になるだろう。少女時代の最期が過ぎていく。



 生まれ育った土地は領土の三分の一が氷河と泥土だった。夏でも冷たい泥土からは時々、死骸が見つかった。

 今でこそその風習が絶えたが、何百年もの昔からそこは処刑地だった。罪人を縛り生きたまま泥に埋めるのだ。冷たくひえた泥の中で遺体は腐らずに、生前の面影を色濃く残したまま半分凍って発見されてくる。

 ある時、若い娘の遺体が掘り起こされた。

 服装から二百年くらい前のものだといわれた。髪を短く切られていた。赤い衣をまとい、針金で両手と足首を縛られていた。

 赤い衣を着ているから姦通罪だと物知りの老人が云った。

 わたしとあまり歳が変わらないような若い女が、妻子ある男性と通じて、泥の中に生きたまま埋められたのだ。

 この世で一番の嫌われ者。そう呼ばれるたびに、わたしの脳裏にはあの若い女の姿が浮かんでいた。

 泥の中から見つかる遺体は不思議なほどどれも静かな顔をしていた。泥があまりにも冷たいので眠るように死ぬのかもしれない。

 針金で手足を縛られた女の顔も眠るようだった。優しい想い出に誘われるように、かすかに微笑みを浮かべていた。切られた髪や着せられた赤い衣からは当時の人たちの女に向けた罵声や怨嗟の声が響いてくるようだったけれど、若い女の遺体はただ静かなだけだった。この世で一番の嫌われ者にもそんな安らかな終わり方があるのだと想うことは、けっこうわたしの慰めになった。

 わたしがこの世で一番の嫌われ者になってしまったのは母さまが早くに亡くなったことのとばっちりのようなところがあったけれど、母さまが云われていたことを云われているのだと想うと母さまと繋がっているような気がして、通りすがりに何か云われてもあまり気にならなかった。

 若い女はきっとひとりきりで死んだのではなかった。愛を抱えて死んだのだ。わたしの母さまのように。



 実家に一度戻ることすらなくわたしは若のお城から嫁に行くことになっていた。嫁ぐまでもうあまり日数がなかった。領主夫人から心づくしの贈り物までいただいて、覚悟も整ってきた。

「今のうちにやりたいことがあれば云え」と若に云われた。

 或る日、若に一つだけお願いしてみた。前からやってみたかったことだ。馬鞍の後ろに乗って手綱を握る若の腰をしっかり抱いた。実家の人たちに見つかったら三年くらいは「またあのメリーが」とぼろかすに云われそうなことだった。

 このまま両手を離したら何もかも終わるよねと少し想ったけれど、飛びすぎてゆく景色があまりにも美しかったし、若の責任になってしまう。

 女ではできない速さで馬に乗ってみたかったのだ。狩りをする時のように遠慮なく飛ばして欲しいと頼んだ。女が後ろにいると考えないで欲しい、男の子たちがいつも馬で野原を自由に駈けまわるように駈けてと若に頼んだ。

「女でこの速さが平気なのかよ」

 若は愕いていた。

「二人乗りだから馬脚は落としてるけど、けっこう走らせてるぞ」

「雲に追いつきそう。太陽の国に行けそう」振り返った若にわたしは伝えた。若が変な顔をしていた。

「そんな顔をはじめて見た」と云われた。

 わたしは若にお願いした。

「もう一度もっと遠くに」

「いいけど、落ちるなよ」

「若」

 云いたいことはいつも云えなかった。云いたいことを云ったら、云わなかった時よりもいつも決まって悪くなった。それにわたしは何を云おうとしていたのか、何が云いたかったのか分からなくなっていた。強いていうなら、男の子になってこのまま何処かに立ち去りたかったかもしれない。これだけ速いのならば叶いそうに想えた。

 若の腰に回しているわたしの手に若の片手が一度だけ重なってきた。馬はすぐに疾走をはじめた。呼びかけておいて黙り込んだわたしを若は追及してこなかった。

 晴れた空の下に草波が打ち寄せていた。林に入れば木漏れ日が大粒の雨のように降ってきた。

 明日嫁ぎ先から迎えの馬車が来る予定だった。荷造りも済ませた。せっかく綺麗な処なのにあと少しでお別れなのは残念だ。

 若は毎日わたしと一緒に馬を並べて、まず行きたいところはないかとわたしに訊き、特になければ領内の景観の良い処を順番に見せてくれていた。遠乗りも今日で最後だ。

 ほんとうに綺麗。青い湖も清い泉も虹を流す滝もあって、大昔の何かの遺跡まであるのだ。そんな遺跡の一つに私たちはいた。若が連れて行ってくれる美しい場所はいつも人が誰もいなくて、空を流れる雲が野原に影をつくっていた。

 崩れかけの石積みの一つにわたしは腰を下ろして湖を見下ろしながら風に吹かれていた。若は少し離れたところでうろうろしていた。やがて止まった。

「処女じゃなくなればいい」

 いきなり若がわたしの顔を見てとんでもないことを云い出した。聞き間違いかと想った。淑女の前で何を云い出すの。信じられないことを口にしている。

「絶対に嫌と云うだろうけど、メリー、ここはもう俺とやっとけよ」

 この人はなにを云ってるの。若はどうしたの。

「変態じじいに嫁ぐよりはましだろうが」

「やっとけよ……とは」

「俺もやったことないからいいだろう」

 それの何がいいのかちょっとよく分からない。それに領主の息子なら手ほどき的なものは受けておられるはずだから女の子の初めてとは全然違うはず。

「メリーが嫌ならやらない。でも俺はメリーとやりたい」

 一足飛びに若はわたしの許にとんできた。わたしの前に膝をついて、若はわたしの両手を握りしめた。

「メリーが好きだ。じじいなんかに渡すか」

 この世で一番の嫌われ者に若はそう云った。


 わたしのどこが気に入ったのかさっぱりだ。そりゃ少しは綺麗だと云われるけれど、ひねくれているし、反抗的だし、腹の中は黒いし、畠のど真ん中で大っ嫌いみんな死んじゃえと叫ぶような子なのに。

「来て早々、畠のど真ん中で大っ嫌いみんな死んじゃえと叫ぶ女なんか国中探してもお前くらいしかいない」

 まああれは悪い意味で印象が強かったでしょうけれど。出来れば忘れて欲しい。

「危ないから止めろと云ってるのに笑ってそっちに出て行った」

 若は続けて、城の広間にしらけ切った顔をしたわたしが案内されてきた時からずばり好みで気に入っていた。名も聞き逃したくらいだと云った。

「お前はどうか知らないけれど俺は最初からいいなって想ってた」

 若はわたしの髪を指に巻き付けてきた。

「お高くとまってる子、好きなんだ」

 よほどの手練れか通人みたいなことを若は云った。本気ならば若の女の子の趣味が悪すぎる。

 処女好きの変態じじいの許に嫁ぎたい女の子なんかいるわけない。心の底から嫌で嫌で仕方なかった。

「云ってみろよ。大っ嫌いみんな死んじゃえって。前と同じように俺は聴いとくからさ」

 涙をぬぐうのに忙しくて若がもちかけた最初のおそろしい話なんか忘れ果てていた。だから若の唇が唇に合わさってきた時も、泣き声がうるさかったのかなと想ったほどだ。さっきから若の手がわたしの胸元の紐や衣の裾を手繰ってる。ひざと肩が風に触れた。ちょっと待って。

 ここで。

 全ての女の子に訊きたい。少女の夢想の中で変態じじいに嫁ぎたいなんて夢みる子がいないのと同じように、人並みの羞恥心があれば初めての時に真昼間の明るい空の下を想い浮かべるような子がいるだろうか。

 それからしばらくわたしは若に抵抗した。ものすごい恰好にされてからも懇願した。待って若、お願い待って、ここでは嫌、お願い若。

「待って若」

 眼を閉じとけと若に云われた。

「俺は待たないよ。お前のことずっと好きだった」

 メリー、好きだ。

 わたしのことを好きになってくれる人が突然現れた。

 それから若とわたしはいつも一緒だった。わたしは楽しいことがあれば楽しいと想い、嬉しいことがあれば嬉しいと想い、笑い声をあげるようになっていた。

 夜明けの鐘と晩鐘の音を若と聴いた。たまには喧嘩もしたけれど若は謝るのがすごく早くてすぐに仲直りした。大樹の下に座ってわたしの膝に広げた木の実を若と食べた。季節が一巡とほんの少しめぐる間、ずっとそれは変わらなかった。



 若の隣りで花を摘んでいた。この花がわたしは好きなのだ。花といえば赤とか薄桃とか黄が多いけれど、わたしにはこの花が一番似合ってる気がする。可憐でかわいい白でもない。可愛げのない青い花がなんとなく日蔭者のわたしには合ってる気がして、昔から好きな花。

 若がその花を摘んできてくれた。憶えていてくれてありがとう。とても心配そうな顔をしている。そうね、ちょっと辛い。でも若のせいじゃないから。

 お医者さまもそう云ってたでしょ。悪いのはわたしの身体だと。早く伝えなきゃ。若のせいじゃないから。わたしが選んだのだから。だから何があってもそんなに哀しまないで。若はわたしを倖せにしかしていない。この世で一番倖せな女の子にしてくれた。

「若と一緒にいれてとても倖せ。若と一緒にいれてとてもうれしい」

 若は頷いていた。


 身体がねじ切れそう。大きな岩に圧し潰されているみたい。骨が裂けていく。血の匂いがする。

 母さま。助けて母さま。

 苦しい。

 産まれる兆候があってからもう二日は経ってるよね。ずっと叫んで泣いて暴れているのにまだ終わらない。ほらまた来た。どんどん辛くなる。さっきよりも辛いなんてもう無理。ものすごい叫び声を上げているのだと想うけれど、もう自分の声も聴こえない。

 あそこに行こう。

 選べるのならあそこに行こう。

 若がわたしの手を取って連れて行ってくれた。わたしがいちばん倖せだった処だ。

 魂は何処に行くのだろう。選べるのなら選ばせて。なんてきれいな星。螺旋の渦巻きのように耀く月や星座を連れて夜空がわたしたちの上にまわっている。

 あの空にいこう。


 ひび割れた唇が切れてずっと舌に血の味がしていたけれど、それももう何も感じない。手足が冷たくふるえてきて、もうわたしの身体ではないみたい。

「メリーごめん、メリー、ごめん。ごめん」

 若は大泣きしていた。わたしの手を握り若は咽び泣いていた。

「メリー、ごめん。ごめん」

 そうじゃない若。

 わたしは謝って欲しくない。謝って欲しくないし、泣いても欲しくない。出来ればいつものあの無礼な調子で軽口をたたいて笑顔を見せて欲しいな。

 無理か。

「メリー、いやだ、いやだ」

 わたしも嫌だ。もっとあなたと過ごしたかった。

 ずっと一緒にいたかった。わたしの生んだ子は産声も弱くて長生きしなさそうな気がした。もう一度あなたを哀しませてしまうのかな。死んだ赤子を抱えて慟哭しているあなたが見える。そんなに苦しませるつもりはなかったのだけど、なんだかごめんね。なんでいつもこうなるのか分からない。わたしは神さまに嫌われているから。この世で一番の嫌われ者だから。だからこの世で一番の嫌われ者にふさわしいものしか来ないと想ってた。なのにこんな嫌われ者を好きだと云ってくれる。若だけだ。わたしもそんな若のことが好き。不器用に編んだ花のかんむりを男の子から頭にのせてもらえるなんて想ってもみなかった。

 こんなにもあなたを哀しませてしまうなんて。でも時を巻き戻しても、わたしはこちらの道を選んだと想う。若もそうだといいな。どう考えてもこっちがいいもの。

「メリー、メリー。いやだ、メリー」

 そのまま呼んでいて。お願い。

 なんだかいい気持ち。

 もうあまり苦しくないの。

 そのまま呼んでいて。わたしの名まえ。あなたに呼んでもらえるのなら、この名で良かった。

 何もかもが大嫌いだった。

 大嫌いだった世界にほんの少しだけとびっきりのいいものがあったから、もう十分。

 メリー。いやだ、メリー

 大嫌いな世界でもわたしに花をくれる人がいた。わたしの為にそんなに泣いている。泣かないで。若のことが大好き。本当に倖せだったから。

 メリー

 わたしの名を呼ぶ大好きなあなたの声がまだしている。わたしの全てはもう動かないけれど、あなたにも見せてあげたい。きれいなお花畑があるんだよ。

 空の下にあの花が揺れているの。虹の中に飛び込んだみたい。

 いつか来て。

 あなたの家族を連れてきて。

 わたしはそこに咲いている花になっていようかな。

 わたしの笑顔をおぼえていて若。

 それだけでいいの。

 逢えてうれしかった。大好きなの。メリー好きだ。そう云ってくれたことをわたしは憶えているから。若。

 手を繋いで。

 階段をあがろう。

 星空がそこにある。



[青い花の色・了]

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青い花の色 朝吹 @asabuki

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