凡人の、凡人による、凡人の為の異世界転生


 先ず三話、読ませていただきました。
 長くはなりますがご了承ください。

 感想から述べさせていただくと、凡人の、凡人による、凡人の為の異世界転生、である。
 以降、私の感じた話になりますので、面倒であれば読み飛ばしてください。


  凡人とは、特に優れたる者のない人間を指す。ものに寛容で隙があり、決して驕らず、誇るものもなし。平坦極まる道をただ生き、不可思議を不可思議と思わず、不明を明かそうともしない。ついぞ道から逸れることなく、真っ当を全うする。故に凡人。凡そ人の域を脱しない。オスカー・ワイルドのいう、「生きるとは、この世で一番稀なことだ。たいていの人は、ただ存在しているだけである」という言葉通りの、ただ存在するだけの余生を過ごして濁りを残さずこの世を去る。
 然らば、凡人とは詰られるべきものか。努力を怠ったとして、この努力主義の世界から敬遠されるべきか。
 否、ちがう。凡人とは、類をみないほどの可能性の塊である。非の打ちどころのないほどに普通で、存在意義も並で、人の価値も凡庸である。だがその時分に憂いを覚え、変わるべくして変われたならば。凡人は如何な非凡にすら成り代わる、無限の選択肢を持っている。
 生まれながらの非凡と、生まれながらの凡人を比するなら、私は生まれながらの凡人を選びたい。平均的とは何にでも化けられる、チートな立ち位置なのだから。
 この物語はそんな凡人を着飾った主人公が表舞台を掻き乱す物語である。さても、これ以降は私の一話ごとの感想とさせていただこう。


 第一話、異世界転移

 第一話、に関してはプロローグ的な要素が多いようである。
 凡人の、凡人による、凡人の為の主人公が先陣を切って、何事かを成す決意を固めているようだが、この時点ではまだ不明。伏線だろう。

 さて主人公、喜志星誠は凡人である。勉学においては並の地頭を持ち、図画工作によっては並のセンスを光らせて結果として普通賞を頂いた。クラスメイトを相手取っては並々の交友関係を持ち、家庭科の授業中にファッションセンスが並であると教員からの感想を賜る。とうとう父母からも普通過ぎるのが心配である、と言われる始末。
 しかしそれでも方寸に暗雲を抱くことなかれ、何事にも凡庸というのは、決して落ちこぼれを指すようなものでも、あるいはその人間が努力を疎んじた結果である、という意味合いでもない。凡庸、あるいは凡人、または普通という評価は、人間数ある中の、一定の水準を下回ることなくあり続けている、という示唆である。教科ごとの評定も悪くなく、交友関係も良好、かつ教師からも見放されるわけでもなく良い距離感で接せ、センスも絶望的というわけではない。こればかりか、己の中で熱中できる趣味もあると来た。然もあらば、きっと彼の人生は凡庸の中でも幸せな方だろう。
 親の「普通過ぎて心配」というのもあるが、トガりすぎる、あるいは何にも凸出することなく非凡的に才能がない、というわけでもないのだろう。存外、この「普通であり続ける」というのは人生の中でも難しいもので、この一定をキープすることだけでもかなりの労力を要するわけである。従って彼の、誇らしげにしているいわば凡人というステータスは、それだけでもかなり光るものがあるといっていい。……はずである。

 両親共働きと言っていた。しかし時刻は21時59分。この時間で帰ってこれないという親御さんたちは、もしやするとかなり辣腕な仕事家なのかもしらん。たとえばこの父母がかなりの有力者で、息子に期待をかけて高負荷な教育を叩き込んだところでこの凡人性であるならば彼らの普通過ぎて心配という心境もわからんでもない。親の心子知らず。子はまずもって親の方寸を解さず。

 家に帰宅した彼を待ち受けるは魔法陣。
 間髪言わさず彼は魔法陣に飲み込まれてしまった。


 第二話、異世界散策

 誠君は手ぶらのまま異世界旅行に来てしまったぞ! さあどうする! 正直準備しても生存しきる気がせん。飼い猫は野生に返すと生存率が悪くなるそうだ。これは人の手によって餌付けされ、安全を四方八方の壁で確立され、夏冬を乗り切る科学の発展が彼らの苦手とする季節を克服させるからである。野生に帰るということは、これら一切の恩寵を受けられぬということ。人間も角も同じで、社会に「飼いならされた」私たちが、肌着にジャケットと長ズボンで都合もわからぬ自然に放られたならば、どれだけ生き延びれるだろうか。正直わたしには生存を続ける自信があまりない。
 
 「とりあえず歩いてみるか」 この点、ポジもネガもなく普通と言い切っているが結構な勇気があるぞ。そもろん、この主人公は一発で己の身に起きた出来事を異世界転移と理解した。……非凡的理解力……。

 さあビタ一文の銭もないスカンピン瘋癲《ふうてん》の男、誠君は野原というか森なんかで人を乞うた。あっぶねえ。危機管理能力は凡人である。声につられてやってきたのが亜人だったれば殴殺も待ったなしである。
 運がよくか頭上に人がいたようだ。メタクソラッキー。てか呼び寄せたのこの人では??
 

 あ、ちなみになんですがここだけエルフ君の呼びが「エレフ」になっております。念のためね。

 
 やってきたはエレフセリア・フライハイト・シェルム・アナグラム。数学的な用語とほんのちょっぴりのドイツ語を混ぜたナイスガイである。正直性別も身姿もわからんから適当言ったが。

 ちなみにここはやはり異世界らしい。そうか異世界か。エルフ君は現世基準らしい。お前ももしや転生者?
 ここら辺に寝泊まりできる場所を聞いたら真っ先にゴブリンの村を上げた。なるほどもしかすると亜人と人間は仲良くやっている世界線なのかもしらん。追加でゴブリン従えて住んじゃえば? という。思考が戦闘民俗のそれ。あっけらかんと支配を目論むあたりこの男も正気の沙汰じゃない。
 

 ライブ感の半端ない話だった。勢いが生きてるなあ


 第三話、この世界について

 洞窟というと暗所、湿地。良からぬものが棲んでいるイメージがある。が、どうにもそんな底腹の冷えるような雰囲気はない様子である。
 このエルフ君はなんというか無邪気さがある。言葉の端々には老獪な精神を思わせる茶目っ気がある癖に、だが言調は年の幼い子供のようである。不思議なキャラだ。

 エルフ君は肉を取り出して焼き始めたらしい。さっき森にいたのも獣を狩るためだったのかも知らん。とかく転生したばかりの主人公に世界の説明を施し始めた。
 どうにもこの様々な種族の織り成す俗物世界をカオス界といい、右隣にある世界を天聖界。左にあるのを地獄界というらしい。この設定は元は現世と天国地獄の互換だろうか。現世は確かに、数えればきりのないほどの種があり営みがある。なるほど混沌である。地獄と天国に至ってはその世界を仕切る種類が極少ない。これに関しては宗教上で存在する種の数が増減するだろうが。
 とかくこの天聖界と地獄界はとくに仲が悪く、五百年という周期で争いを始めるのだとか。
 主人公の目的は、おそらくこれを止めることにあるようである。


 統括したい。

 全編、勢いのある話の進み方だった。三話までという制限のもと、どうしても話の全体把握は困難を極めるが、かれの、誠君の目的のようなものが三話でつかめれたのは素直に良い所である。
 主人公の目的というものを曖昧にしてあった場合、特に異世界転移ものというのは生き方における選択性があまりにも多いもので、そのために結局主人公は何を目指して生きていて、何をするために蜂起しているのか、等々、わからずに物語が進んでしまう懸念がある。早い段階でおそらくレが主人公のしたいことだろう、というのを、一話の序盤と、三話の終盤で合致させたことはイイ采配であると思われる。


 さて、私の感想は、凡人の、凡人による、凡人の為の異世界転生、である。

 読んでみた感想を率直に言わせてもらうならば、もうすこーし情景描写があると世界にのめり込めるかもしれない、というところである。例えばエルフ君の容姿然り、主人公然り、どういった服装で、がわかると読み手は彼らの身姿を想像することが出来る。あとは物語中に主人公の癖を織り込むだとか(例えて、嘘をついたら鼻を触る、退屈な時は髪を触る等々)細かな点を付け加えると、読者も主人公たちの僅かな気の変わりようなどがわかって世界に入り込めるものだと思う。
  
 感想欄で貴方が高校生である、という情報を知った。よい。もっと書いてほしい。恐れずに。まじで。応援してます。
 凡人というテーマを作品にした転移ものというのもなかなかに珍しい気がする。のと、私が如き零細がこのような偉ぶったことを言うのは恐縮ではあるが、今はきっと、趣味で書いてらっしゃるのだろうが、例えば本気でWEB小説を書きたいと思うならば、私がこの企画で応募してもらった作者様たちのごとき猛者の文豪もサイト中にたくさんいる。そういった人たちのものをたくさん読み、文や文字を味わって知見を増やしてほしいと思う。何というか貴方くらいの年頃が如何なる分野でも伸びる年であるのだ。この小説というカテゴリでなくてもよいので、色々なことに挑戦してほしいと思う次第である。老婆心、加えてこれは実に取るに足らぬ節介ものの言葉なので、気に入らなければ全然無視してもらって構わない。

 大変面白く読ませていただきました。
 応援しています。

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