3

 川沿いの道にマウンテンバイクを転がし、真亮と一緒にどっかと腰を下ろした。微かに香る草の匂いと夕方のひぐらしの声。豪快に笑いながら真亮は言った。


「あんなとこで覗いてたらよ。怒られるに決まってるじゃんかよ!そりゃお祭りの前は兄ちゃん達、気が立ってんだもん」


 真亮は幼稚園の頃からの友達だ。昔から身体が大きく皆の兄貴分のように侠気のある男だ。人の悪口と陰口が何より嫌いで、こそこそと何かを話す同級生を見るとずかずかと近づいて、そのでかい声で

「こそこそ喋るんだったら、面と向かって言え!」

と激昂していた。そんな裏表のない性格に安心した海児は正直心底信用できる相手として接していた。


「どうせ歌奈のとこに行ったつもりなんだろ?」

「お前はどうなんだよ?」

「がはは、俺はそうだよ」


 目を目一杯細くして真亮は言った。


「我らが歌奈が千年節を歌うんだぜ?そりゃあ応援すんだろ?」

「はぁ?」


 同じく歌奈とも幼稚園からの付き合いだ。身体が小さくていつもメソメソしていた歌奈をいつも助けていたのが真亮だった。


「なぁにやってんのよ。あんたら」

「あっ…」


 夕焼けの太陽をバックに仁王立ちしていたのは、歌奈だった。細く引き締まった足にショートカットの髪、真亮より二回りくらいは小さな顔をしているが、真亮よりもだいぶ大きな瞳をしている。


「兄ちゃん達が怒鳴ったなって思ったけど、あんたらだったんだね?」

「ら、って。こいつと一緒にすんなよな。なぁ海児」

「うぇっ!」

「あんま邪魔すんじゃないよ」


 真亮のおかげで、だいぶ外交的な性格になったようだ。何事もストレートに言う表裏のない性格。そのおかげでか、親と同じく民謡を習うことにしたのだろう。


「すげぇよな。お前はな」

「まぁね」

「自分で言うとこがお前らしいよな」

「あ?海児それどういうことよ?」


 歌奈は海児にヘッドロックをかけた。やれやれと囃し立てる真亮。


「いててっ!」

「アンタ、父さんに言ってアジフライ禁止にすんよ?」

「そりゃねぇって…」

「なんだよアジフライで釣れんのかよ海児。しょっぺぇなぁ」

「うるさいって…」


 マウンテンバイクを立てると、海児はそれに跨った。


「まぁ、僕はもう帰るよ」

「なんだよ。歌奈送ってかねぇのか?」

「こいつなら大丈夫だよ」

「ひっど。レディを前にしてさ」

「どの口がレディだって?」

「まぁ本人がそう言うならそうなんだろ。どうだ、俺のに乗ってけよ」

「だめよ。アタシ2ケツは好きじゃないの」

「レディが2ケツって…」

「アンタはいちいち細かいのよ!モテないよ」

「へいへい」


 3人は歩き出した。西の空はオレンジ色に完全に染まっている。

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線香花火 回転饅頭 @kaiten-buns

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