敖霜枝
「あ、お客さん! また会ったネ!」
いろいろと落ち着きのなかった冬も終わりが近づき、人の都は以前と同じ活気を取り戻しつつあった。
なかでも再び
久々に気が向いて市場に
「花屋のおじさん、こんにちは」
店主はにっこりと笑い、満足げにうなずく。
「聞いたヨ。国が変わったんだって? 大変だっただろう。おかげで、商売はしやすくなったんだけど」
見ると、店先に並べられた植物の種類が前よりも増えている気がした。
路地裏に小ぢんまりと
花屋はあれから随分と
「そういえば、この前一緒にいた友達は? 今日は来ていないノ?」
あまり触れてほしくない話題を振られ、敖丙はぴくりと肩を震わせる。
「
「そっか。それは残念だネ」
もれた声は低く、力を感じさせない。
本当のことを言うわけにもいかず、
彼はもう戻ってこない。
だって、あのとき
今からでも、
「おや? 仕事、もう終わったみたいだヨ」
ほら、と。
不意にかけられた言葉に、敖丙は無意識に背後を見た。
振り向いた視線の先にあった後ろ姿を見た瞬間、心臓が大きく跳ねる。
あの日以来、一度も会っていない。
二度と会うことはないと思っていた彼が、変わらぬようすでそこに立っていたからだ。
ふわりと、冷たい風が前髪を巻き上げた。
彼はこちらを振り返ることなく歩き出し、人混みのなかに消えていこうとする。
――もう二度と、逃げはしない。
そう思い、敖丙は懐かしい背中に向かって走り出した。
菊の花が咲くまで、あともう少し。
敖霜枝 白玖黎 @Baijiuli1212
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