第四章「二つの月」最終話
「ねぇ、ナッちゃん。今日はどこいくの?」
手を繋いで商店街を歩きながら、遥香は隣にいるナツキに問いかけた。
「あれ、言ってなかったか? 末次堂だよ。和菓子屋さん。今日は金箔入り超高級羊羹が限定数量で販売されるんだ」
ウキウキと応えるナツキの声を聞いて、やっぱりなぁ、と遥香は思った。
この竜堂ナツキという人は、遥香にとって遠い親戚に当たるらしい。
この数週間、遥香はナツキと一緒に暮らしていて、色々と分かった。
この人は、考えている事がすぐ態度に出るタイプだ。
ウキウキしている時のナツキは、いつもだいたい甘い物の事を考えている。
楽しい時はゲラゲラと笑っているし、嫌なことがあると言葉に出してプンプン怒る。
その喜怒哀楽の目まぐるしさに、遥香は初めびっくりした。けれど、ナツキの事はすぐに好きになった。
仲が良くなってからは、良く二人で一緒にお出かけをしている。
見た目が良く似ているから、並んで歩いているとよく姉妹に間違われた。
遥香は、それが少し嬉しかった。
ナツキが本当のお姉ちゃんだったら良かったのになぁ、と思っていた。
「今日は友達も一緒なんだ。この先で待ち合わせしてる」
「へ、へぇ……」
友達も一緒、と聞いて遥香はほんの少しだけ不安な気持ちになった。
知らない人は苦手だ。
思うように喋れなくなってしまう。
そんな遥香の思いを察したのか、ナツキは繋いでいた手をギュッと握った。
「……だーいじょうぶだって! たぶん、あっちもメチャメチャ人見知りする方だから。とにかく、目的は羊羹! 今回の費用は全部アニキ持ちだから、腹一杯食べちゃうぞぉ!」
そう言ってお腹をポンッと叩いたナツキを見て、遥香は思わず笑ってしまった。
ナツキは、細いのにたくさん食べる。最低でも二人分は注文する。
遥香が「食べ過ぎじゃない?」と聞くと、「俺は二人分楽しまなきゃいけないの」などと、よく分からない事を言うから面白い。
そうやって通りを歩いていると、視線の先に見覚えのある店舗が見えてきた。
和菓子の末次堂は、ナツキの行きつけのお菓子屋さんだ。
遥香も何度か、お饅頭やわらび餅をご馳走してもらった。
出来立てのわらび餅はホカホカとしていて、とろぉりと伸び、つるんと口に入る。
ほっぺが落ちるほどに美味しいのだ。
店の前には、もう数人が並んでいた。
「あっ、いた!」
その中に友人の姿を見つけたのか、ナツキは大きく手を振った。
「おーい、ついりーん!」
どんなに人目があっても、ナツキはそれを気にしない。
視線の先には、一人の少女の姿が見えた。
丸まった背中。目立たないように小さく手を振っている。
その友人は確かに、ナツキの言う通りのタイプの人なのかもしれなかった。
苦手な感じじゃなさそうだ。
遥香は少しだけ気が軽くなった。
「よしっ、走ろ!」
そういうと、ナツキは末次堂の方へと駆け出していく。
「あっ、ちょっと待ってよぉ!」
遥香は慌ててそれを追いかけた。
末次堂の前で待つ「ついりん」というあだ名の友人は、少しだけ恥ずかしそうにしながら、ナツキに向けて満面の笑みを浮かべていた。
月鱗のナツキ エビハラ @ebiebiharahara
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