第4話 そして、思い出した僕

「また外したー!」

「今は黙ってて!」


 僕の叫び声を邪魔に感じたのか、おねーさんは銃を構えながら大声を上げる。そのプレッシャーに一旦は黙ったものの、また壁を焦がされちゃたまらない。

 僕はマジ顔になって、おねーさんに注文をつけた。


「今度はよく狙ってよ!」

「最初からよく狙ってるから!」


 おねーさんは真剣な顔でまたポンに狙いを定める。逆に、攻撃対象の方の緑のバケモノは、絶対に当たらないと余裕の態度だ。


「お前の攻撃なんて当たれへんわ~! ほなな~」


 ポンは僕らにわざとらしく手を振りながら、そのまま窓の外に向かっていく。僕は思わずまた大声を出した。


「ああっ、逃げられちゃう!」

「ちょっと集中させてっ!」


 おねーさんはイライラしながら、逃げようとするクリーチャーに向かってまた銃を連射する。それをポンはひょいひょいと踊るように軽快に避けていく。


「また外れ~」


 おねーさんの攻撃を余裕で全て避けきった緑のバケモノは、そのまま窓の外へと逃げていった。最後まで馬鹿にされ、してやられた感で絶望した僕はぺたりとその場に倒れ込む。

 その次の瞬間、さっきまで憎まれ口を叩いていたその声の主が苦痛の叫び声を上げた。


「ふんぎゃああー!」


 その声に驚いた僕が急いで窓に駆け寄ると、外に飛び出したポンが真っ黒焦げになって庭に落ちていた。どうしてそうなってしまったのか、訳が分からなかった僕は思わずおねーさんの顔を見る。


「ど、どう言う事?」

「あ、そうだ。この家全体を結界で覆ってたんだ。あいつに逃げられないように」

「もしかして最初から?」

「え? えーと……。そ、そうに決まってるじゃない。あはは……」


 質問に答えたおねーさんの目は泳いでいた。どうやら、狙ってこの結果になった訳ではないみたいだ。それでもこれで事件も解決したと言う事で、僕はようやく心から落ち着く事が出来た。

 おねーさんはそのまま庭に飛び出すと、落ちていた黒焦げを特殊な道具を使って拘束する。その様子を見ると、流石にそう言う仕事をしているプロなんだなあと実感した。まあ、銃の腕はかなりのへっぽこだったけど。


 落ち着いた事で色々と聞きたい事が思い浮かんだ僕は、今からその好奇心を満たす事にする。


「それで、あの……おねーさんは?」

「あ、自己紹介がまだだったっけ? 私はリリム。次元捜査官よ」

「次元捜査官?」

「簡単に言うと別の次元のおまわりさんね。あいつも別の次元の生き物なのよ」


 ひと仕事を終えたおねーさんは、ドヤ顔でふんぞり返る。僕の記憶を盗んだのはこの世界のバケモノじゃなかったみたい。おねーさんの話はすぐには信じられないような話だったけど、目の前で繰り広げられたバトルとかを見ていたらもう信じるしかないよね。

 大体、あんな光線銃、ゲームとかでしか見た事ないし。


「それであいつを捕まえに?」

「そ。一週間もかかっちゃってゴメンね」

「い、いえ……」


 おねーさんは改めて僕に対してぺこりと頭を下げた。何だか申し訳ない気持ちになった僕は、遠慮がちに両手を左右に振る。顔を上げたおねーさんは、ニコッと笑うと僕の顔を覗き込んだ。


「ボクはあいつに記憶盗まれちゃったんでしょ、大丈夫。ちゃんと取り返してあげる」

「本当?」

「本当よ~。おねーさんにまっかせなさーい」


 おねーさんはそう言うと、両腕を腰に当てて胸を張った。この時、意識を取り戻した黒焦げがまた憎まれ口を叩く。


「けっ! な~にがまっかせなさーいや」

「強がりもその辺にしときなよ。惨めになるだけだから」

「お前なんかに捕まった時点で惨めやわ……」

「ふふん。その言葉、褒め言葉として受け取っとく」


 自分が勝った余裕からか、もうこの脱走犯から何を言われてもおねーさんは余裕で聞き流していた。それからも悪口や暴言は続くものの、全然思い通りの反応が返ってこないのでポンはもうやけくそになるばかり。


「くそっ! 絶対また逃げ出したる!」

「はーい、その話の続きは監獄でね~」


 それからしばらくすると、どこからともなく謎の機械が出現する。そして、この拘束された犯罪者を自動的に回収していった。僕はその様子を息を呑みながら観察する。異次元の科学力は進んでるなぁ。

 同じ光景を眺めていたおねーさんは、これで自分の仕事は終わったと言わんばかりにため息を吐き出していた。


「ふう、これで一件落着っと」

「あの、僕の記憶……」

「あ、そうだった! ちょっと待って~」


 おねーさんは悪口合戦に夢中になってしまって、僕の記憶の事をすっかり忘れてしまっていたらしい。焦ったおねーさんは、そのまま謎の機械を追いかけて姿を消してしまった。大丈夫かなぁ……。



 それからの僕は以前のような激しい物忘れをする事もなくなって、普通の生活を送る事が出来るようになっていた。部屋の黒焦げもお母さんに見つかる前にいつの間にか直ってしまっていて、少し前の出来事がまるで夢だったよう。

 ただ、物忘れが酷かった一週間分の記憶はどうやっても思い出す事が出来なかった。


 でもそれはあいつに盗まれたんだから当然だよね。思い出せないんじゃなくて、最初から僕の記憶にないんだから。ただ、そのせいで誰かを淋しがらせている気がして仕方がない。

 みんな気を使って普通にしてくれているけれど……。


 それから数日後、僕が部屋で漫画雑誌を読んでいたら突然お母さんが入ってきた。


「速達が来てたわよ」

「あ、うん」


 封筒を受け取った僕は差出人を確認する。そこにあった名前は、見覚えのあるものだった。


「あ、リリムさんからだ」

「誰? 知り合い?」

「う、うん」


 お母さんに少し疑われながらも、僕は何とかごまかしてその封を切って中身を確認する。そこにあったのは、1枚の便箋びんせんとトランプみたいな謎のカード。メッセージを読むと、そのカードに僕の記憶が封じられているとの事だった。

 カードを手にした僕は、説明通りにそれを額に当てる。するとどうだろう、僕の頭に次々と記憶が逆流してきた。そうして、ついに全てを思い出す事が出来た。淋しがらせていた誰かの事も、これでやっと思い出せたんだ。


 次の休みの日、今度は僕からサトシを誘おうと思う。そう、あの忘れられた公園にね。

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忘れ物がひどい~僕は未来が不安で仕方がないんだ~ にゃべ♪ @nyabech2016

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