第6話

 四十九歳を迎えた頃、久しぶりに、小さくなった夏が遊びにきた。

 俺が「いいよ」と夏を手招きしても、夏は近付いては来ず、むしろ不服げな顔をしていた。

 アイドルなんぞに現を抜かした俺を笑いにきたのかと思ったけれど、夏があまりに居心地悪気にしているものだから、俺はもう一度「いいよ」と言った。


 秋が来て、冬が来て、春が来て、五十歳になった俺のところにもやっぱり夏はいる。

 たまに、あの日々と四葉がくれた光たちの話なんかをしてやると、少し離れたところで退屈そうに聞いてくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏がいたこと いりこんぶ @irikonbu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ