四十九歳で亡くなるつもりだった男性と、その人生にまとわりつく〝夏〟の物語。
擬人化された夏のお話です。
表現技法的な意味での擬人化、夏の存在を「誰か」がそこにいるかのように表現する、主人公の叙情的な感覚がとても綺麗な現代もののドラマ。
大変引き込まれるお話でした。
クラスメイトの自死から始まり、次いで父親との別離と、色濃く死の気配が漂う物語。
重く湿った読み口の中で、からりとしているはずの〝夏〟の手触りがかえって暗示的に働き、とにかく読んでいて心地いいのがものすごい。
でも個人的に何より大好きなのが、やっぱり中盤以降の怒涛の展開。
ある種の救済が描かれているのですけれど、突然地に足がつくというか、叙情的な感覚がなりを潜め、目の前の出来事や事実ベースでの記述が怒涛のように押し寄せる。
その落差というか勢いというか、文字越しに眩いエネルギーが炸裂しているような感覚に、半ばめまいすら覚えるほどでした。
夏が遠ざかり姿を消す、その主人公の感覚と同じものを、追体験させてくれるところがもう本当に好き。
とにかく迫力のある作品でした。面白かったです。大好き。