第5話
夏がいなくなった代わりに、俺は彼女を追うようになった。
彼女たちのグループは「春色フリア」といって全く売れていない地下アイドルだった。ごく小さなライブハウスと登録者数二百人前後のweb配信がメインの活動で、メンバーの一人が農協職員の娘であるという理由でしばしば地元のお祭りの類に参加していた。
俺はしこたま貯まっていた貯金を二度の夏で使い果たし、副業を始め、死亡保険のオプションを減らした。数少ない春フリ好きから「おまいつヲタ」と呼ばれるようになり、それが「おまえいつでもいるな」の略だと聞いた時は腹を抱えて笑った。
四葉のダンスは上達して、堂々とした振る舞いができるようになった頃に農協の娘が大学進学を理由に脱退し、代わりに可愛らしい顔立ちの十四歳の少女が加入した。
ライブ会場は少しだけ埋まるようになり、四葉は年少者に遠慮している風なはにかんだ顔をよく見せた。
一ドリンク五百円でもらったミネラルウォーターを飲みながらライブを観るのが好きだった。チェキとか握手とかに興味はなくて、ただステージ上にいる彼女を観るのが好きだった。
メイクが上手くなった四葉のそばかすはレアで、他のメンバーが髪型や髪色をころころ変えたのに四葉はポニーテールをかたくなに貫いていた。
平日は仕事と副業でひたすら金を貯め、週末はライブのルーティンで、付き合いの悪くなった俺を会社の誰も気にしなかったけれど俺にとってはありがたかった。
まあでも地下アイドルだったから、結局春色フリアは三年目の春に解散した。集客やメンバーの雰囲気から俺もオタクたちも薄々勘づいていて、かえって笑顔でその日を迎えられた。
いつもは後方にいる俺がサイリウムを両手に持って最前に立つ姿を、四葉もうれしそうに見ていた、のだと思いたい。結局オリジナル曲は一曲もなくて、お決まりのアイドルソングとポップソングと泣かせるバラード。
最後は観客もメンバーもぐちゃぐちゃに泣いて笑顔で「ありがとー!」を叫び合った。
多分記憶の中で存分に美化されたそういう日々のこと。
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