第11話 前世の記憶を取り戻した私
ノエル・ワイズ…ノエル…。
私は改めてじっと目の前のノエルを見つめた。駄目だ、もう少しで彼女が何者か思い出せそうなのに…。
それに日本人と言う言葉は何だかとても響きが心地よい。
「な、何よ…そんなにマジマジと見つめて‥‥。いい?私が今貴女の前に現れたのはねぇ…貴女のせいでちっともイベントが始まらないから文句を言いに来たのよ!」
またしても、目の前のノエルは訳の分からないことを言い出す。
「私のせいでイベントが始まらないってどういうこと?学園のイベントなら待っていれば始まるでしょう?秋には学園祭が開催されるし、12月にはホワイトパーティーが開催されるじゃない」
「違うわよっ!私が言ってるのはそんなイベントじゃないわっ!アルフォンソ様との出会いのイベントが発生しないって言ってるのよっ!悪役令嬢のアリーナ・バローが少しも行動しないからよっ!一体今まで何やってたのよっ!」
可愛らしい顔をしたノエルは短期なのだろうか?地団太を踏みながら文句を言ってくる。
「え‥?アルフォンソ王子との出会いのイベント…?」
そこでようやく私は全てを思い出した。
この世界が前世で日本人だった頃の私が好んでプレイしていた乙女ゲームの世界であるということに―。
****
ここは乙女ゲーム、『ロマンス学園~恋する瞳~』の世界。
今私の目の前にいるノエルはゲームのヒロインであり、アルフォンソ王子は攻略対象のメインヒーロー。
そしてこの私は…アルフォンソ王子の婚約者で、定番の悪役令嬢。
しかもこの悪役令嬢、アリーナ・バローはノエルが攻略対象にアルフォンソ王子を選
んだ場合にのみゲーム中に登場してくるのだ。
ノエルが他の攻略対象を選んだ場合はゲーム中のモブですら登場しない、何とも中途半端な悪役令嬢なのである。
…道理で、自分の顔を鏡で見ても何も思い出せなかったはずだと今更ながら思ってしまった。
とにかくこのアリーナ・バローという人物は、ノエルとアルフォンソの仲を激しく嫉妬し、徹底的に2人の仲を邪魔し続ける。時には犯罪に近い嫌がらせをノエルに行い…ついにアルフォンソ王子によって全学生の前で処罰されてしまう。
そして、ゲーム中で悪役令嬢であるアリーナ・バローには2つのエンディングが用意されていた。
まず一つは爵位を奪われて修道院に送られる。
二つ目は身ぐるみ全て剝がされて、世間の荒波に放り出される。
これらのどの結末になるかはストーリーの進行状況によって異なる――。
****
「お…思い出したわっ!!」
「キャッ!な、何よっ!今までブツブツ呟いていたと思ったら今度は急に大きな声をあげたりして…驚かせないでよっ!」
ノエルは何か私に文句を言っているが、いまはそれどころではない。
「そうよ…私の前世はこのゲームをプレイしたことのある日本人女性だったのよ!尤も、今となっては自分が何故死んでしまったのかは少しも理由は思い出せないけど」
道理でこの世界に違和感しか感じないはずだ。だってここはもともとはゲームの世界なのだから。
「何だかやけにあっさりしているみたいだけど…ここがゲームの世界だってことが分かれば話は早いわ。だったら自分が何をするべきかもう分かっているでしょう?全く…本当に嫌になるわ。本来であれば入学式と同時にアルフォンソ王子とのイベントが発生するはずだったのに、肝心の悪役令嬢がいないんだもの。私がどれだけ焦って、貴女を探し回っていたか分かる?」
ノエルは私の気持ちなどお構いなしにべらべらと話し続ける。
だが、私はどうしても彼女に言わなければならないことがあった。
「ノエルッ!」
「キャッ!な、何よっ!いきなり大きな声出さないでよ!」
しかし、私は彼女の抗議などお構いなしに口を開いた。
「私…どうしても貴女に言わなければならないことがあるのよ…」
そして、ジロリとノエルを見た―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます