第8話 2番手王子の言い訳

 私とアルフォンソ王子が王立アカデミ―『フローレンス』に入学してから13年の歳月が流れ…私達は大学生になっていた。



 この13年の間、私達2人の中では互いの成績を競い合う熾烈な戦い?が繰り広げられてきたのだが…試験の結果はいつも同じだった。


私が首位でアルフォンソ王子はいつも2番手という結果に終わっていた。


入学以来一度もアルフォンソ王子は私に試験で勝てたことが無かったので、今も私と王太子の仮婚約状態は継続中だった。


 しかし、例え仮の婚約でも王太子の婚約予定者ともなれば普通は相手が誰なのか周囲にバレてしまう可能性の方が高いのだが…私たちに至ってはそのような事は無かった。


何故なら、初めてこの学園に入学したときの当初の約束は未だに守られ続け…学園内で姿を見かけても互いに挨拶すら交わさない仲だったからである。


その為学園内では私とアルフォンソ王子の関係を知る者は誰1人としておらず、今日まで至っている。



 しかし、それでもこの13年で私達にもある変化が見られた。


アルフォンソ王子は今まで一度も私に試験で勝てたことが無い為、私に恨みを持ち始め…終いには学園内で私にすれ違う度に、睨みつけてくるようになっていた。


これは、はっきり言っていい迷惑だ。



 アルフォンソ王子は私のように友人もいない、ボッチの私とは違って彼の周りには男女を問わず、多くの人が集まっている。


太陽の様に明るい笑顔を皆に振りまき、多くの女性達からの憧れの存在…まさにアカデミーのアイドル的存在であった。

 

私はそんな相手から、学園内で唯一憎々し気な視線で睨まれる存在となっていた。この状態が数年も続くと流石に鬱陶しくなっていた。


そこで最近の私は、まるで王子から逃げ回るような学園生活を送るようになっていたのだった―。



****



 5月―


今日は大学生になって2度目の学期試験の結果発表の日だった。



学生たちが掲示板の前に集まり、張り出された試験結果を見て騒いでいる。


「すごいな〜。またアリーナ・バローが一番だよ」


「全科目満点なんてどんな勉強をしているのかしら?」


「でも、掲示板で名前は見るけど…そもそもアリーナ・バローってどんな女

だっけ?」


「ええと…う〜ん…影が薄すぎて、ちょっと分からないな…あ、すみません!」


1人の学生が直ぐ側に立っていた私に気付かず、ぶつかってきた。


「いえ…大丈夫です」


返事をすると私は掲示板を見上げた。

成績優秀者、上位20人までしか張り出されな掲示板には当然の如く、一番上に私の名前が記されている。


フフフ…今回の試験で又しても私はアルフォンソ王子に勝つことが出来た。

後4年、頑張って首席を取れば王子との仮婚約という関係は終わり、私は晴れて自由の身になれるのだ。


そして卒業と同時に、自分探しの旅に出る。

それが私の夢だった。

何しろ18年経った今でも私はこの世界に違和感を感じてならなかったからだ。

旅に出ればこの違和感を解消出来る…そんな気がしていのだ。



さて。

成績も確認したことだし、あの人物が現れる前に退散しよう…。


踵を返して掲示板の前から立ち去りかけた時…1人の学生がとんでもないことを口にしてしまった。


「それにしても、アルフォンソ王太子様はまた2番だったのか…悔しいだろうな〜…アリーナ・バローとか言う、存在感が薄い女に負けるなんて…」


すると、周囲にいた学生たちが慌てたようにその学生を咎めた。


「ばかっ!お前、成績の事を口にするなっ!」


「そうよ!アルフォンソ王子に聞かれたら大変よっ!」



その時―。


「確かに…僕はいつも2番だけどね。これには訳があるんだよ」


突然アルフォンソ王子が掲示板の近くにある巨木の陰から現れた。


「アルフォンソ王子…っ!」


命知らず?な言葉を口走った学生が後ずさった。


あ…あんなところで盗み聞きしているなんて。相変わらず陰険王子だ。


「僕がいつも2番手に甘んじているのはね…それはアリーナ・バローの為なんだよ。彼女はテストの成績で1位を取ることで自分の存在を皆に認めて貰いたいと願っているんだよ。アリーナ・バローは勉強でしか自己主張をすることが出来ない気の毒な学生だからね。現に彼女が2番手だとしたら、みんなはアリーナ・バローという女子学生に興味を示すかい?」


そして王子は私の存在に気付いていた様子で一瞬チラリと私を見た。


「なるほど…確かにそうね」


「言われてみれば、興味は持たないかもな」


「流石は王子様だ。相手の事を気遣うなんて!」


途端に周囲では王子を称賛する声が上がり始めた。


全く…くだらない。


これ以上、こんな茶番劇を見ているのは時間の無駄だ。


「さて、そろそろお昼だし…いつもの場所へ行きましょう」


私は踵を返し、掲示板を後にした。


そんな私を、恨めしそうな視線で物陰からじ〜っと見つめている人物に気づくこともなく―。





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