第9話 ボッチな私に嫌がらせをする王子

 5月の青い空の下では見事な草原が広がっている。



「ふぅ…もう少しで丘の上に着くわね」


銀の長い髪を後ろで1本にまとめた三つ編みを揺らしながら、私は学園内の草原を歩き、ずり落ちそうになった眼鏡を上にあげた。

前方には小高い丘と丘の頂上にそびえたつ1本の巨木。


私が目指しているのはあの巨木。

最近、私が1人でランチをするお気に入りのスポットである。


学園内で友人と呼べる存在が1人もいないボッチの私。

大学生になってからというもの、天気の良い日にはあの巨木の下で家から持参したお弁当を食べることにしているのだ。


あの場所なら誰も来ないし、私を邪魔するような存在は何もない。

この学園内で…いや、この世界で私が一番心安らげる場所と言っても過言ではない。


何故私が屋外で、しかも人目を避けるような場所でランチを取るようになったのか…。


そこにはある事情があった―。



****


 高校生の頃までの私は、昼休みは学食で1人でランチを食べていた。


けれども大学生になってからは状況が変わった。

アルフォンソ王子がわざとらしく友人たちを引き連れて私がいる学食へやってくるようになったからだ。


挙句によりにもよって、私の座るすぐ近くのテーブル席にくるものだから質が悪い。

他にも空いてる席が沢山あるにも関わらず、わざと近くに来るのはボッチの私に対する明らかな嫌がらせであることは分かりきっていた。


けれども、学食は学生なら誰もが使うことの出来る場所。

文句を言うことも出来ず、黙って食事をしていると、まるでボッチな私にあてつけるかのように王子が友人たちに語り出すのだ。


「やっぱり大勢の友人たちと一緒に食事をするのは楽しいね」


「はい、そうですね」

「やはり1人だと味気ないですからね」

「食事をするには会話も必要ですよ」


その言葉は学食に来ていた他の学生たちの耳にも入ってくる。

彼等は皆当然の如く、友人同士やカップルで食事をしに来ているものだから、ボッチの私に視線が集中するのは無理も無かった。



はっきり言えば、私は自分が目立つことが大嫌いだ。

その為、外見も目立たないようにわざと地味に見せる為に伊達メガネをつけて三つ編みをしている。

こんな姿をしている大学生などいない。恐らく私だけだろう。


そこまでして目立たないようにしているのに…。

アルフォンソ王子のせいで私はランチの時間、周囲の学生たちから好奇な視線を受け続けなければならないのだ。


流石にたまったものではない。


本来であれば、こんなことやめて下さいと一言物申してやりたい。

けれども私は王子に『決して話しかけたりしない』という約束を交わしているのでそれすら出来ないのだ。


何故、王子がこのような嫌がらせに出るのか…理由は分かり切っていた。

テストで私に絶対に勝てないものだから嫌がらせをして憂さ晴らしをしているのだ。


このように大人げない行動が連日のように続けられた。


アルフォンソ王子は時に友人同士であったり、女子学生と2人きりで学食に来たこともある。

特に美しい女子学生と2人きりで学食に現れた時は、わざとらしく私の前で肩を抱いたりしながら話をしていた。


この時ばかりはアルフォンソ王子の行動が謎で首を傾げてしまった。

可能性として私を嫉妬させようとしての行動なのだろうかと一瞬考えたけれども、すぐにそれは打ち消した。


何故なら私と王子は犬猿の仲、お互いに嫉妬しあうような仲では決して無いからだ。


結局全ての王子の行動は、単に私に対する嫌がらせをする為だけの行動だと判断し…とうとう私は学食で食事をするのをやめてしまった。


そして代わりに見つけた穴場が、校舎裏手に広がる草原に囲まれた小高い丘の上だったのである―。



****



「ふぅ~…やっと到着したわ…」


目的地に到着すると、敷布を広げて腰を下ろした。


丘の上は5月の爽やかな風が吹き抜け、草花の良い香りを運んでくれる。

眼下に見えるのは白塗りの壁が美しい学園の校舎。


「フフフ…。こんな絶好なロケーションを眺めながら食事が出来るなんて最高の贅沢よね…」


私は早速食事をする為、ここまで持ってきたバスケットの蓋を開けた。


持参してきたおしぼりで手を拭きながら、バスケット中をあらためた。

中には彩りが美しいサンドイッチやスコーンが入っている。


「美味しそう…では早速…いただきま~す」


サンドイッチに手を伸ばしかけたその時…。


「な、何ですって~っ!!」


突然私の真上で声が聞こえ…次にバサバサと小枝や葉っぱが降り注いできた。


「キャアッ!い、一体…何なのっ?!」


ひょっとして木の上に誰か登っているのだろうか?


上を見上げたその時…。


バキバキバキッ!!


何かが折れるような音が頭上で響いた。


次の瞬間…。


「キャアアアア~ッ!お、落ちる~っ!!」


私の真上から見知らぬ少女が落ちてきた―!




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