第3話 尋ねてきた人

 翌日―


昼食後、自室で1人でバロー家の図書室から借りてきた歴史小説を机に向かって読んでいると不意にノックの音が聞こえた。


コンコン


「アリーナ、私だ。入るよ」


返事もしないうちに扉が開かれ、父と母が室内に入って来た。


「…何か御用ですか?」


この両親はまだ5歳の娘だからノックさえすれば勝手に部屋に入っていいと思っているのだろうか…?


「す、すまないっ!今度からはキチンと返事を聞いてから扉を開けよう」


どうやら私の考えが態度に現れていたらしい。


「ええ、そうね。私たちが悪かったわ。だから機嫌を直してくれるかしら?」


父と母は必死に私に謝ってくる。

…ひょっとして、私は両親から恐れられているのだろうか?


「いえ、元から機嫌は悪く等ありませんよ?それでどのような御用ですか?」


笑みを浮かべて2人を見る。


「あ、ああ。実はね、アリーナにお客様が来ているのだよ。どうしてもお前に会いたいと言って先方が聞かなくてね…。忙しいかもしれないが、ちょっと来てもらえないかな?先ほどからずっとお待ちしているのだよ」


「まぁ…アリーナは本当に読書が好きなのね?こ、こんな…挿絵も無いし、びっしりと文字が書かれた分厚い本を読むなんて…と、とても私には読めない本だわ…」


母のその有様は、まるで私に媚を売ろうとしているようにも見て取れる。


「いえ、文字は細かくて多いかもしれませんが…軽い文章で読みやすいですよ。第一面白いですから。では、参りましょうか?お待たせしてはいけませんから」


「良かった!来てくれるのだね?ではすぐに行こう」


父はあからさまに喜んでいるし、母はほっとした様子を見せている。


こうして両親に連れられて、私を尋ねてきた人物の元へ向かった。




「お父様」


父に抱きかかえられながら声を掛けた。


「どうしたのだね?」


「ひょっとして…私に会いに来たと言う方は身分が高い方なのですか?」


「ギクッ!な、な、何故そんなことを…?」


明らかに動揺しまくる父。


「そんなことは簡単です。先ほどからずっとお待ちしていると話されたではありませんか。お父様の言葉遣いからお相手の方は私よりも身分が高い方ではないかと思っただけです」


「あ、ああ…た、確かにその通りだよ。それにしても凄い洞察力だね…とても5歳児とは思えないよ」


父は苦笑する。


「いえ、それ程でもありません。ではお相手の方の身分とお名前を教えて頂けますか?」


「わ、分かったよ…お名前はアルフォンソと言うお方だが…身分は…明かさないように言われているのだよ。自分から直接言いたいと…」


何故か父は口ごもる。…気の毒だからもうこれ以上追及はやめよう。


「分かりました。ではその方から直接伺いますね」


すると今まで存在感がまるでなかった母が安堵のため息を付いた。


「あぁ…良かったわ。貴女が会ってくれると言って…もし嫌だと言ったらどうしようかとずっと心配していたの」


「そうですか?」


一体何を両親は心配しているのだろう…?



しかし、この時の私はまだ知らなかった。いや、相手の名前を聞いた時にすぐに気付くべきだったのだ。


そうしたら…絶対会わずに逃げていたのに―。






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