第2話 腫れ物扱いの私

 私が5歳になった頃…。


その頃には私が天才だという話は世間一般に浸透していた。普通に考えれば我が子が天才と呼ばれれば、家族は喜ぶはずなのだが…バロー家では違っていた。




 家族揃っての夕食の席―。



私より2歳年上の兄、カイゼルが両親と楽しげに会話をしている。


「お父様、お母様、僕ね…今日家庭教師の先生から算数の割り算の問題を解けるようになって褒められたよ!」


「まぁ、それは良かったわね。偉いわ、カイゼル」


「ああ、本当にお前は自慢の息子だよ」


3人は仲よさ気に話をしている。

私は最期のデザートのプリンを口にしていた。


カイゼルは7歳で割り算の問題を解けるようになったのか…。

7歳という年齢を考えれば、中々上出来かもしれない。


カイゼルは両親に褒められたのが嬉しいのか、私を振り向いた。


「どうだ?アリーナ。凄いだろう?」


まだ7歳のカイゼルは私の事を何も知らない…というか、よく分かっていない。故に度々私をからかってくることがある。

それは、私のことをまるで腫れ物のように扱ってくる両親や使用人達に比べれば、ある意味心地良いものだった。


「やめなさい!カイゼル!アリーナに構うんじゃないっ!」


「ええ、そうよカイゼル。貴方の凄さは私達が認めているのだから」


父と母は兄がなるべく私に関わらないように必死になって止めている。


「何故ですか?!僕は兄ですっ!兄の凄さを妹に知って貰うのは当然です!」


おおっ!7歳児にしてはなかなかのことを言う。よし、では少し褒めてあげることにしよう。

残りのプリンを食べ終えると、ナフキンで口元を拭いて兄を見た。


「流石ですわ、お兄様。これからも努力を怠らず、是非とも精進を続けてくださいませ。そうすればきっと将来立派な大人になれることでしょう」


そしてにっこり微笑んだ。


両親は呆気に取られた顔で私を見るし、カイゼルは分けがわからないのか首を傾げている。


「え…?ショウジン?ショウジンって何…?」


「それでは食事も終わりましたので、私はお先に失礼致します」


席を立つと、家族に挨拶した。


「あ、ああ…そ、そのようだな…」


父が引きつった笑みを私に向ける。


「ア、アリーナ…1人でお、お部屋に戻れるかしら…?絵本でも読んであげましょうか?」


すると…。


「あ!ずるい!お母様っ!僕だって絵本読んでもらいたい!」


まだ7歳の兄が母を独占しようと声を上げた。


「え、ええ…だけど…」


母が困ったようにチラリと私を見る。


「大丈夫です。私は1人で部屋に戻れますし、絵本も1人で読めるので結構です。お気遣いありがとうございます。それでは失礼致します」


そして会釈すると、私は1人でダイニングルームを後にした。




 長い廊下を歩きながら窓ガラスに映る自分の姿を横目で見る。


…マリンブルーにブロンドで波打つ長い髪…。


何度見ても違和感しか感じない。


「お父様もお母様も…私に気を使う必要なんか全く無いのに…」


今夜も私は自分自身に違和感を感じながら自室へ向う。



そして翌日、私にとんでもない話が舞い込んで来るのだった―。

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