貒狸 ー まみだぬき ー
すらかき飄乎
貒狸 ― まみだぬき ー
「
床屋の四朗さんが呟いた。
「マミ」とは何の事かと
どうやら、昨日突然に
さう云へば、夜中に小用に起きた時、つい隣の
「
頭の上ではかん〳〵と日が照つてゐる。
僕は、
あゝ、
四朗さんはと見ると、
「こんなのはどうだい? 『
「何だい? それあ? 狂歌かね?」と問ふた所、
「狂歌だらうが、何だらうが、
日曜日の
店の奧には、あれが息子なのだらう、鼠みたやうな顏の若い男が中腰に構へてゐて、ちら〳〵
然し、子供の頃からよく知つてゐるあの男の子は、こんな顏だつたか知らん。
どうも、氣持ちが片附かない。
刃物で顏を撫でられるのは
まあ、四朗さんであれば、長年の近所附合ひの
四朗さんは僕の顏にシヤボンを塗りたくり、鼻から口を覆つて熱いタウヱルを乘せ、
ラヂオからは
何より四朗さんの機嫌を損ねる事になるやも知れぬ。
さうしてゐるうちに、掃除の方も一通り終はつたやうに思はれたが、今度は
人閒、かういふ狀況に置かれゝば、誰しも多少
僕は
實際、四朗さんは中〻戾つて來ない。もう、
顏に乘せたタウヱルは、すつかり冷えてゐる。
冷えた
時が
そんな
然し、四朗さんからは、
それはまあ
第一僕の
それよりも何よりも、實は
何が
これは何も今日に始まつた事ではない。
これらがいつも臭ふ
四朗さんが、剃刀を振るつてゐる閒中、そんな事を
一通り顏を
殊に今日の客は僕一人。
仕舞ひには僕の腕をむずと
そして、今度は指。
無防備な僕の指を、ぽき〳〵鳴らし
「あゝ、今日は怖かつた。だつて、さうぢやないか?
何と物騷な事か。
僕は、はつと四朗さんの顏を見た。
これは――
氣が附いてみると、これは四朗さんではない。
何時の閒にかに、鼠みたやうな、あの小男が隣に立つて、僕の指を鳴らしてゐる。
さうして、爛〻と僕を見据ゑて、にや〳〵笑つてゐる。
<了>
貒狸 ー まみだぬき ー すらかき飄乎 @Surakaki_Hyoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます