第42話 あなたの不幸に花束を
(しかし、奴の攻撃手段は一体? オルタリアでさえ避け切れない攻撃。いや、そんなはずはない。コイツの戦闘力はとんでもないレベルだ。それを上回るだなんて……彫像にしろ看板にしろ、コイツなら注意深く観察して……ん? 注意? 不幸? まさか、そういうことか!)
偶然も重なれば必然という言葉がある。
奴の力は条件を皮切りに、偶然を必然に変えるもの。
いわばジンクスの化身。
「そうか、ピクラスの信じてるジンクス……それが奴の攻撃手段」
「ねぇどうするの? ガラスの中じゃどうにもできないわよ」
「チャンスはあるさ」
だが確証はない。
そうこうしている間にもジンクスの牙は容赦なく……。
バリンッッッ!!
「ひぃい!」
「な、なに?」
「おいどうした!?」
「み、見ちまった……」
「またか、今度はなんだ!?」
「見ちまったんだよぉ! 一番最悪なのを!! うわぁぁああああ!!」
「ちょっと落ち着いて!」
「落ち着いていられるか! 見ちまったんだよぉ! 自分の姿が写ったガラスが割れるのを! これが一番ダメなんだ! ずっと注意してたのにぃ~! もうおしまいだぁ!!」
ピクラスのパニックを栄養に、虚像が膨れ上がってきた。
とうとう窓から這い出てきて、空を覆い尽くすほどに巨大化する。
「おいおい聞いてねぇぞ」
「街中大パニックね……これじゃあ」
「今は街の人間の避難だ!」
だが続けざまに起こるのが不幸。
「おい、動けるか? ……おい、オルタリアどこ見てんだ!?」
「え?」
彼女が聞いたのは小さな物音だった。
もはや戦場と化したこの街。
そんな中で彼女がよそ見をするなどありえない。
しかしその音は偶然にも、オルタリアを振り向かせるにはちょうど良すぎた。
大きすぎず小さすぎずの音圧。
ザクザクザクゥ!!
「か、ふ……っ」
「オルタリア!!」
そこへ偶然どこからともなく飛んできたナイフが跳弾でもするかのように壁を跳ね返りながら、彼女の頸部を射貫いた。
「あが……あぁ……」
彼女は白目を向きながら歯を食いしばってひざまづく。
その姿を見てピクラスはさらに絶望し号泣すると、かの虚像はさらに膨れ上がっていった。
彼女を抱きかかえるようにしてゲオルは周囲を見渡し虚像を睨み付けた。
街はそれ以上にトラブル続きになり大混乱。
なにより突然現れた巨怪により、さらに輪をかけて騒ぎが大きくなる。
同時にあちらこちらで起きるトラブルがこちらの不幸となって跳ね返ってきた。
「おいおい嘘だろ勘弁してくれよ!」
「う、ぐ……」
「俺は俺はぁああ、うわぁああ……」l
「おま、オルタリアはともかくとして、アンタは普通に走れっての! 抱えきれねぇよ!」
ふたりを抱え逃げながらも冷静に疑問を浮かべる。
(奴の能力はともかく……なんでオルタリアを狙う? さっきからずっとコイツを狙ってる。ピクラスじゃねぇのか?)
もっと考察したかったがそれどころではない。
不幸の連鎖はヘヴンズ・ドア全体の規模となり、収集がつかなくなった。
「くそ、今日の運勢俺も最悪だ。あの雑誌もう二度と読まねぇ!」
「そんなこと、言ってる、場合……アハハ、笑かさないでよ……」
「どうするんですかぁ!」
「ちょっと黙ってろ。今考えてる」
考えて、どうなるか。
しかしそのとき、一陣の風が吹いた。
3人の頬を優しくなでるように。
「ごめんネ。遅れちゃっタ」
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