細やかに描き込まれた「異界」の物語

創作物では著名な吉原ですが登場する作品をちゃんと読む機会というのは意外に少ないかも……。
それが江戸期ではなく明治になってからならなおさらで、かつての栄華は遠く、という絶妙な時代背景の世情が丁寧に描きこまれていたのではないかと思います。
その吉原の界隈の一角にある、この世のものならぬ一軒の妓楼が舞台で、その妓楼自体は作中においても「異界」という扱いだと思いますが、そもそも作中の遊郭街にしてからがその時代の人々から見ても健全な世間から切り離されたある種の「異界」であり、それを小説として読む私たちにしてみれば明治期のこの時代習俗にしてからが「異界」という……。
作者様がそこまで意識して執筆していたわけではないかも知れませんが、安易に借りてきただけの浅い描写では、なかなかそこまでの所見を読み手に持たせる事は難しかったと思います。舞台となる妓楼やそこに出入りする様々な人々の姿が丁寧に描き出されていればこそではないでしょうか。
あくまでも短編であり派手な展開が用意されていたわけではありませんが、それだけに細部のさりげない丁寧さが光る一作だったと思います。

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