書籍二巻 販促SS♯4

「無事、完了、です。よし、送信……」


 回収した掘削用爆薬の写真を添付し、ユニゾン人機テクノロジーに送信する。回収物の納入もきちんと終えて、千早はオールラウンダーとの接続を切った。

 珍しく機体を壊さずに仕事を終えた達成感を味わいつつ、水筒の麦茶を飲む。

 終わってみれば大きな黒字。だが、危険がなかったわけでもない。


「なんだったんだろう、あのアクタノイド部隊」


 いきなり銃撃戦を始めたかと思えば、ボマー蠍を狙って行動を始めたり、かと思えば銃撃戦は続けていたり、目的がいまいち見えない集団だった。

 だが、四匹も現れたシダアシサソリが分散したのはあのアクタノイド部隊のおかげでもある。おかげで千早はボマー蠍の処理に集中できた。


「ま、まぁ、いいかな」


 どうせ終わった依頼の話だ。深く考える必要はない。そもそも、自分はあの部隊と戦ってすらいないのだから。


「あ、畑のクレップハーブにお水を上げないと」



 ボマーから送られてきたメールを読み終えて、ユニゾン人機テクノロジー代表の厚穂澪は胸をなでおろした。


「騒動もなく終わったわね」


 珍しいこともあるものだと、厚穂は思わず笑い声をこぼす。

 ボマーに依頼して騒動もなしに終わるとは思わなかった。しかし、新界生配信にまで証拠映像を撮られている状況で依頼できる口の堅いアクターはまずいない。

 未だに正体を隠し続けるボマーは口の堅さにおいてだけは信用できる。


 これで今日一番の懸念事項は片付いたと、厚穂は穏やかな気持ちで部下からのメールを読み、顔色を変えた。

 ボマー蠍についての情報収集をさせていた部下からのメールだ。

 ボマー蠍のいた雪山で三十機以上のアクタノイドが破壊されたとの情報である。アクターズクエストに緊急で出された大破アクタノイドの回収依頼からの推察だという。


「そんなこと、さっきのメールには一言も……」


 念のためにボマーからのメールを読み返すが、戦闘があったことすら書かれていない。


「あの雪山で何が起きたのよ」


 あの戦争屋のボマーがわざわざ戦闘を隠したのが気にかかる。普段なら派手に暴れて存在をアピールするやつだ。

 場所も悪い。なにしろ、ユニゾン人機テクノロジーが管理しているレアメタル鉱床の近くだ。

 厚穂たちが気付かなかっただけで、レアメタル鉱床が狙われていたのかもしれない。例えば、掘削用爆薬をボマー蠍から強奪し、それをレアメタル鉱床付近で起爆するような、事故に見せかけた妨害が計画されていたとしたら?


 すぐに厚穂はレアメタル鉱床を警備している部下へ業務命令を出し、現場の確認をさせる。

 何か恐ろしい事態に巻き込まれているとしか、厚穂には思えなかった。


「三十機……相当な額よね。鹵獲せずに野晒しなんてボマーらしくない。これは何かのメッセージ?」


 分からない。何も分からない。情報が少なすぎるのだ。

 悩む厚穂のもとに、現場を確認した部下からの一報が入った。

 破壊された機体のほとんどに弾痕があり、シダアシサソリの鋏でばらされたような跡もあったという。しかし、爆破された機体が見当たらない。なおかつ、ほとんどが登録上は紛失したことになっているロスト機体らしい。

 一見、ボマーは何の関係もないように見えるが、現場を見た部下によれば広範囲にワイヤー陣が敷かれていたという。


「盗賊アクターの集団を潰し合わせた……?」


 ボマーの意図に気付いて、厚穂は息を呑む。

 衛星が打ち上がるまでの間、盗賊アクターは店仕舞いするために機体を処分する。ボマー蠍の爆薬で機体を破壊されたことにして、ユニゾン人機テクノロジーに請求するつもりだったのだろう。

 だが、それを察したボマーにより殲滅された。しかも、ボマー本人は戦いもせず。

 この戦闘はユニゾン人機テクノロジーへのメッセージではない。盗賊アクターへのメッセージだ。


 ――盗賊アクターの動きを読み、潰し合わせることもできる。


 そしてボマーの魔の手が迫っていると知らされた盗賊アクターは防御を固めるだろう。盗賊アクター同士で手を取り合うかもしれない。

 盗賊アクターが準備を万全に整えてこそ、ボマー本人が戦いたいと思えるほどの戦場が出来上がる。


「……これは宣戦布告?」


 騒動もなく終わったと、厚穂は思っていた。

 だが、違った。

 騒動はこれから起こるのだ。


「関わらないでおきましょう」


 巻き込まれそうだなと思いながらも、言霊を怖れて厚穂はため息交じりに呟いた。

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千早ちゃんの評判に深刻なエラー 氷純 @hisumi

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