第3話 3月16日 ①

 ── ハッ ──

 私はうぐいすの鳴き声で飛び起きた。起きると目の前には見慣れない風景が広がっていて、寝ぼけながら昨夜の事を思い出した。

 昨日は色々あった。いや、ありすぎた。でも今は日中にっちゅうだし、誰かに事情を説明して神上村まで送ってもらおう。

 まずは今は何時かと、昨日見つけた目覚まし時計を見る。驚きだ。針は9時を指している。この時計が正確なのかは分からないが、昨日から見ている限り多分正確だと思う。しかし寝過ぎだ。知らない場所でこんなにも爆睡できるのかと自分に呆れた。


 辺りを見回すと、日の光が差し込んで家中の全貌がはっきりと見える。

 昨日から薄々感じてはいたが、この家は少々居心地が悪い。勝手に上がり込んでおいてこんなことを言うのは罰当たりかもしれないが、何と言うか胸の奥がざわざわするのだ。


 まぁそんなことは気にせず、少し家の中を徘徊することにした。

 私が今居る寝室の畳は、少し土が付いていて素足では歩く気にならない。かといって靴下を汚すのも嫌だったので布団から出る時に渋々素足になった。


 寝室を出ると長い古ぼけた廊下があった。

 私は廊下を歩きながら一つ一つ手当たり次第部屋を漁っていき、台所、居間、客間、風呂場、便所を見つけた。

 どうやらこの家には表玄関だけでなく裏口もあるようなので、私は探検するかの様な気持ちで裏口から出てみた。

 ドアの先には山があり、鬱蒼うっそうとした森があった。

 流石に私はその森まで探検する気にはならなかったので、辺りを見回す程度の探索をして再び家の中へ入った。


 ふと私は、昨日出会った仮面をつけた店主から貰った赤い箱の存在を思い出した。

 "あの箱の中身は何だろう" そう思い、私は赤い箱が置いてある寝室へ急ぎ足で戻った。


 私は寝室に入って早々「あった!」と声を出し、箱のそばへ駆け寄った。

 私は箱の前で正座をし、恐る恐る箱を開けた。

すると箱の中には一本の巻物があり、私はそれを箱から取り出した。

 慎重に巻物を開いていくと、それはただの巻物ではなく " 絵巻物 " だった。

 絵巻物と言うと、日本人は真っ先に「鳥獣人物戯画」を思い付く。鳥獣人物戯画は面白いことに絵だけで話が出来上がっているというのだから驚きだ。

 まさか、これもそうなのだろうか。

 私は一旦、巻物を畳の上に最後まで広げてみた。

そして初めからじっくり観ていったが、鳥獣人物戯画ほどは分かりやすくなかった為、話になっているのか何なのかは分からなかった。

 ただ、バケツのような物を被った人や大きな柳の木、そして犬のような生き物などが描かれているのは私にも分かった。

 そこで本題に戻る。あの店主は何故これを私に渡してきたのだろう。それは、考えても分からなかった。


 とりあえず、身支度…といってもお面と箱と財布しかないが、それを持ってこの空き家を出た。空き家を出る際に時計を見たら、まだ午前11時だったので今日こそは神上村に帰れるだろうと希望を抱いた。


 空き家を出たはいいものの、私はどう助けを求めようか迷っていた。

 見える範囲に人は一人も居らずあまり家もないので、私は周辺を少し歩いて人を探すことにした。空き家の裏、畦道あぜみち、物置小屋。私は至るところを探した。次に家畜小屋を見つけ私が中に入ろうとしたその時、中から話し声が聞こえてきた。



 『おい、こいつどうする?』


 『そろそろ飽きたし他の場所に行こうよ。』



 声の雰囲気からすると小学生くらいの男の子だろう。話を少し盗み聞きしていると、どうやら家畜小屋から出てくるような雰囲気になったので私は何故か咄嗟とっさに少し離れた茂みに隠れた。

 私が茂みに隠れてすぐ、その男の子たちは小屋から出てきた。が、私はあまりの驚きに声を出しそうになったけれど急いで手で口元を塞いだので幸い声は出さずに済んだ。しかし、あまりの異様な光景に私は目を奪われた。その男の子たちは、先程私がみた絵巻物に描かれていた人のように頭にバケツや段ボールを被っていたのだ。それはまるで、さっきの絵巻物通りに物事が進んでいるかのようだった。


 私はさっき見た絵巻物の中身を必死に思い出した。" 確か、バケツを被った人の近くには犬が描かれていたような… " そんな曖昧な記憶を掘り起こしながら必死に思い出しているうちに、男の子たちはいつしか遠くの方へ行っていた。私は辺りを見回して近くに人が居ないことを確認すると、茂みから出てさっきまで男の子たちが居た家畜小屋に恐る恐る近づいた。小屋の近くは家畜小屋なだけあって獣臭い。けれどそんなことは気にせずに、私はゆっくり小屋の扉を開けた。


 小屋の扉を開けると、中は日の光が差し込んで床に敷いてある干し草が輝いて見えた。小屋の中は思ったよりも殺風景で、動物は勿論仕切りや農具なども無かった。結局中には何もなかったのかと少し落胆したその時、小屋の隅に置いてあったブルーシートが動いた。私は怖かったが、シートの下に何があるのか無性に気になったので、この際一気にブルーシートを取ってみた。それと同時に、恐怖のあまり


 「嘘、やだ……」


と私は小さく声を出してしまった。

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よついがみ 黒宮 四季 @kuromiyashiki

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