第2話 3月15日 ②

 一本道の入り口に差し掛かると、入り口の横には奇妙な貼り紙と机の上に置かれた様々な仮面があった。貼り紙には


 ── 在るべき場所に、帰るべき場所に、

われにかへれ   お面一つ差し上げます。──


と書かれていたが、私には始めの言葉が何を意味しているのかさっぱり分からなかった。それよりもその貼り紙の下に置いてある仮面の方が気になって仕方がなかった。仮面は 翁、女、ひょっとこ、天狗、狐、鬼 の6種類が置かれていて、どうやらこの中から1つ好きなお面をプレゼントしてくれるみたいだ。どれもイマイチだったが、私は狐のお面を選んだ。お面を選んだところで、私は早速一本道に入った。

 一本道に入ると、さっきの広場とは違い灯籠の数が一気に減った薄暗い道を歩くことになった。途中、あまりにも静かで人が歩いていないものだから道を間違えたかと不安になったが、一本道なので間違えるはずがない。不安の中しばらく道を歩くと、遠くの方から微かに祭り独特の " ドンチャン ドンチャン " という賑やかな音が聴こえてきた。どうやらこの村でも本日祭りをしているらしい。

 私はそう認識し、手荷物になっていた仮面を顔に付けた。仮面をつけると視界が狭まるが、目の部分に穴が開いているので一応前はしっかり見える。


 仮面を付けて少し歩くと再び祭りの賑やかな光景が目の前に広がった。だが、それは少し異様な光景だった。その祭りでは、皆顔に仮面を付けていたのだった。

 それぞれひょっとこや鬼、翁などの様々なお面を付けていて、誰一人素顔が見える人は居なかった。その光景に少し違和感を感じたが、私はそんなことよりまず誰に助けを求めようか右往左往していた。

 そんな時、私は目の前にあった一つの店の前で立ち止まった。その店は、祭りの屋台の一番端のあまり街灯が当たらない場所にあった。品物は地面の上に敷いたブルーシートの上に並べてあり、店主であろう人はそのブルーシートのど真ん中でうつむきながら座っていた。

 私はその品物が気になり少し立ち寄った。品物は壺、巻物、小刀、置物など、骨董品の様な物がほとんどだった。

 私がしばらく品物を眺めていると、店主がむくっと前を向き、翁のお面を付けながら私のことをじっと見つめていた。その店主の視線はまるでお面の下にある私の顔を見つめているかの様だった。店主は見つめるのを辞めると、次は私に話しかけてきた。


 『お嬢さん。君は何処から来たのかい?』


 私は行きなり話しかけられて驚いたが、現在迷子進行形の私には天からの救いのような質問だった。


 「あ、えっと、神上村っていう村から来たんですけれど、辺りも暗くて迷子になってしまって……」


 久々に人見知りを拗らせた。最後は消えるような声になってしまい、最後まで伝わったのか不安だった。

 店主は少し悩んでいる素振りを見せた後、自分の真横に置いてあった赤い箱を私に無言で渡してきた。そして一言


 『東へ行け。』


 とだけ言って、また下を向いてしまった。

私は仕方ないので、月を目印に東の方角を判断し、一応言われた通り東の方角へ歩いていった。


 祭りを後にしてさらに東の方角へ進むと、そこには田んぼや畑だらけで稀に大きな家があるくらいの自然豊かな田舎に着いた。

 こんな田舎に辿り着いてしまってこれからどうしようかと私は悩んだ。やはり人気ひとけの多いところで別の人に助けて貰った方が良かったのだろうか。そう頭を抱えながら、私は一軒の家の玄関の前に立った。もう、流石にこんな時間じゃ申し訳ないが一晩泊めて貰うしかない。私はそう判断し、その家のインターホンを押した。

 インターホンを押してしばらく待ったが全く反応がない。もう一度インターホンを押したり玄関をノックしたが、それでも反応がない。まさかと思い玄関の扉に手をかけると


 ── ガラッ ──


扉が空いた。私は恐る恐る " ごめんください " と言いながら中に入った。

 家の中は薄暗く、照明などはついていなかった。中を少し歩いてみて分かったのは、私の予想通り。そのまさかの空き家だ。

 本当は空き家でもこの家に住んではいけないのだろうけれど、私は仕方なく一夜を此処で明かすことにした。

 一夜を明かすとなれば、念の為此処が安全な場所なのかを調べておかなければならない。と、私は思い少し家の中を探索することにした。

 まずは、今いる部屋の入り口の壁にあったスイッチを押してみた。すると、空き家にも関わらず電気はまだ通っていたのか照明がついた。

 私はその調子でこの家の寝室であろう部屋を探し出した。その寝室であろう部屋には、古い目覚まし時計があり、よく見るとまだ動いている。多分、前の住人が置いていったものだろう。時刻を見ると、針は10時45分を指していた。

 知らない場所での夜は怖い。私はお腹も空いていたが、早く朝になって欲しい気持ちの方が強かったので、寝室にあった押し入れの扉を開けた。押し入れの中には敷布団が3つあり、私はその1つを畳に敷いて、すぐに眠りについた。

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