よついがみ

黒宮 四季

第1話 3月15日 ①

 私、今西いまにし 蘭乃らな は、本日の夜から3日間に渡って開催される地元の祭り「牲怪丑夕祭りせいけちゅうゆうまつり」に来ている。

 この牲怪丑夕祭りは、私の住んでいる土地 神上村かみじょうむら が出来たのと同じくらい古くから行われている祭りらしい。今となってはこの祭りが何のためにどの様な経緯で行われてきたのかを知る人は誰もいない。けれど祭りの形だけは残り今に至る。

 私は中学受験を機に、小学校の友達と別れ それ以来約4年間会っていない。今頃皆は中学の時の友達や現在同じ高校に通っている友達と祭りを楽しんでいる頃だろう。

 当の私はそんなこんなで、今年も一人で祭りに来ている。祭りの賑やかさや盆踊りの太鼓の音などが少し虚しく感じるが、今の私にそんなことは関係ない。目の前に広がる屋台が私にとってのテーマパークだ。そのテーマパークで思う存分楽しんで、食べ物やら景品やらを沢山家に持ち帰り、その気分のまま深夜まで家でエンジョイするのだ。

 そんな気持ちで屋台を巡ろうとしたその時


── シャン シャン ──


何処からか鈴の音が聴こえてくる。

しかし、その後しばらく耳を澄ましていても再び鈴の音が聴こえることは無かったので、気のせいかと思い屋台の方へ行こうとする。すると再び


── シャン シャン ──


あぁ、今度はしっかりと聴こえた。

この鈴の音は祭りが行われている神社の本殿の裏から聴こえてくる。私は誰かがお囃子はやしの練習でもしているのかと思い、そっと近づき本殿の裏を覗いた。だがそこには誰も居らず、さらに山の上の方から再び鈴の音が聴こえてきた。

 この山の上にはもう何もないはずだが、私の耳にはしっかりと鈴の音が聴こえてくる。他の皆は気にならないのかと思い辺りを見回すが、気にしていないのか聴こえていないのか、皆鈴の音など御構い無しに祭りを楽しんでいる。

しかし、私はこの鈴の音がどうも気になって仕方がないので少しだけ山を登ってみることにした。

 もう日が暮れた薄暗い山道を少し登ると、鈴の音が徐々に大きくなり笙の音も聴こえてきた。やはりお囃子でもしているとではないかと思った途端、目の前が一気に明るくなった。そして私の前に突如現れたその光景に


 「嘘でしょ……」


と間抜けな声を出してしまった。自分の間抜けな声に自分でも驚いたが、今はそれどころではない。この山には今日祭りが行われている 白桜神社はくおうじんじゃ しか無いはず。なのに私の目の前には約500本程だろうか。真っ赤な鳥居がずらっと並び、所々鳥居と鳥居の間に道標と言わんばかりの灯籠が並んでいる。

 私は口をぽかんと開け間抜けな顔で驚きながらその場に立ち尽くしてしまった。驚きながらもそれが十分不可思議な出来事であることは直ぐに分かった。しかし、その異様な雰囲気に包まれている鳥居は何故か私の興味をそそった。

 私は一旦辺りを見回した。そう言えばいつからか鈴や笙の音が聴こえない。やはり私の気のせいだったのだろうか、いやでも私の耳には何度もしっかり鈴の音が聴こえた。そんな疑問を抱きながらも、恐る恐るずらっと並ぶ鳥居の中を歩いて行った。



 もうどのくらい歩いただろう。そろそろ鳥居の終わりが見えてもいい頃だ。そう思った瞬間、視界の遠くに光が見えた。


 「あぁ、ようやく終わりか。結構長かったな。」


そう愚痴を溢しながら鳥居の出口へと歩いて行った。出口を出ると、目の前には森の一部を切り開いて作られたような少し小さめの広場があった。その広場には、灯籠とその先へ進む道と看板があった。

 私はまず、ここが山のどの辺りなのかを知る為に看板に近寄った。すると、その看板には


──ようこそ、与津壱神村よついがみむらへ──


と書かれていた。いや、そんなはずはない。私が歩いたのは 約1.5㎞ 程だ。さっき祭りをやっていた山を越える筈がない。ましてや与津壱神村なんて言う村は聞いたことがない。

 私は辺りが薄暗いこともあり、早く元来た道を辿って下山しようと後ろを振り返る。すると、さっきまで通ってきた鳥居や道が消えていた。消えていると言うよりも初めから無かったかのように、鳥居があった場所は森に包まれていた。

 私はあまりの不思議さに驚きを隠せず、パニックになり立ち尽くしていた。私はパニックになりつつも頭をフル回転させ、今最も最善な行動を考えた。そして私が導き出した答えは


" 先ずは目の前にある一本道を進み、その先にあるであろう与津壱神村と言う村で助けて貰おう "


という結論に至った。高2にもなり迷子と言うのは大変恥ずかしいが、今はもう夜。自力で神上村に戻ることは困難だろう。そう考えて、私は泣く泣く一本道の方向へ歩き出した。

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