第4話
「ここだ。」
美月は女性に引っ張られるがまま、旅亭の前についた
「名前は何だった?」
「さ、紗英子です。」
「それは本名だよな。」
女性は美月に振り向いた
「婆やは使い走りには子とは付けない。」
「み、美月です。」
「そうか、本名はここでは名乗ってはいけない。」
「どうしてですか?」
「もし誰かに本名を聞かれて使われてしまったらに二度と帰れなくなる。」
「帰るって寝ればいいんでしょ。」
「それがここではできなくなる。」
「どうして?」
「美月、美月は本来ならばここにいるべき人間ではない。」
と言うと女性はすぐに歩き出した
女性の足元には影がなかった
「女将さん。」
「はい。」
すぐに年老いた女の人が出てきた
「はい?」
「この子だって。」
「まあ、この子なの、名前は?」
「美月です。」
「あらそ、じゃあんたは皿洗いやっといて。」
「えー。」
女性は口を尖らせた
「だってしょうがないじゃない、団体客なんだから。」
「はいはい、分かりました。」
女性はつかつか歩いて行った
「それで美月ちゃんは、配達の仕事でもするか?」
「でも配達ってここよく知らないんですけど。」
「大丈夫だ、式神に案内させればよい。」
「は、はあ。」
女将さんは美月の肩をポンと叩いた
「台所に行きなさい、そこで折詰の弁当をもらってきて、劇場に届けてきなさい。」
「はい。」
美月は元気に台所に駆け出した
走ると転ぶわよの声が後ろに聞こえた
「すいません。」
美月は壁に隠れるようにして台所の中をのぞいた
中はみんなが手ぬぐいを頭に巻いて忙しそうに動き回っている
「あのー。」
「何よ。」
土鍋をかき回している女性が振り向いた
「要件があるならさっさと言いなさい。」
「あ、はい、あの、折詰の弁当はどちらに?」
「ああ、あなたの足元よ。」
美月は足元を見た
こんもりとした風呂敷があった
「その中だから風呂敷ごと持ってって。」
「はーい。」
美月は風呂敷のむずび目を軽くほどいた
中には十個はあるだろうか四角い折詰が積まれている
美月は引きずるようにして戸口へと持っていった
「ねえ。」
美月は門柱に寄りかかって寝ている式神をゆすり起こした
「芝居小屋までもっていくんだって。」
「あっそ。」
「冷たい返事ね、案内してよ。」
「やだ。」
式神は目を閉じた
「ねえってば。」
美月は式神をゆすった
「分かったよ、ついてこい。」
式神は歩き出した
美月も式神の後をついて行った
言の葉 華 @reina0526
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。言の葉の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます