第2話

紗英子は式神としばらく馬車に乗っていた

周りを過ぎる景色がどんどん速くなっていく

身を乗り出すと辺りは真っ暗

「ねえ。」

紗英子は式神の着物の袖にしがみついた

「これ、どこまで行くの?」

「古都まで。」

式神はしっかりと前を見ている

「その婆やってどんな人?」

「かなりの婆、年はかなりいっているはず。」

「そうじゃなくて性格。」

「きつい、けどお気に入りになれば優しい。」

「どうして私なの?」

「婆やが勘違いしているからだろ。」

紗英子は式神の横顔をまじまじと見つめた

「何だ?」

「どうしてあなたは勘違いだって気づいたの?」

「初めてお前と会った時、模様が少し違うって何となく思った。」

「どこが?」

「婆やが前に言っていた模様は蝶に触覚までついていた、でもお前のにはそれがない、だからだ。」

「そうなのね。」

「あんまり喋ってると舌嚙むぞ。」

紗英子は口を閉じた

「ほら、前を見ろ、もうすぐ着くぞ。」

式神は顎でしゃくった

紗英子は目を凝らすと、さっきまで真っ暗だったところに次第に灯りがついている

初めは小さなまばゆい光

だんだん大きく、そして明るくなっていく

黒い雲の中にはひときわ大きくて明るい街があった

馬車はそのままスピードを落とさずに突っ込んでいく

急に周りが曇に覆われだした

「な、何?」

紗英子は辺りを見渡した

「しゃべるな、舌を噛むぞ、前のバーにつかまっとれ。」

紗英子は必死にバーにつかまった

強い衝撃と共に馬車は地面に付いた


「だからお前らは運転が下手くそなんだ。」

罵声に紗英子は薄目を開けた

「ここは?」

「古都だ。」

式神はそっと紗英子を起こす

「全く以ってあいつらはほんと運転が下手くそだな、おいお前らちゃんと練習しとけ。」

「は、はい。」

猫のお化けたちは式神の罵声と共に逃げて行った

「来い。」

紗英子は周りを見渡した

さっきまでの灯り一つもないだたの暗闇の中

そして地面だと思ってたのはただの木の板

「さっきまでの灯りは?」

「もうすぐ門が開く。」

ぎー

鈍い音と共に目の前の高い門が開くと目の前には、華やかで明るい街が広がっていた

周りにはたくさんの生き物たちがいる

「お前さん怖くないのか?」

「ううん、全然、何か親しみやすいと言うかどこかで見たことがある。」

「ほんとか?」

「うん、何かここ知ってる。」

「そんなはずはないんだが、まあいいか、立て、行くぞ。」

紗英子は式神に引っ張られるがまま、古都の門をくぐった


華やかなに彩られている

たくさんの人でにぎわい、話し声が飛び交い、どこ家の前にもお店があり、人で溢れかえっている

門からまっすぐ伸びた道の奥にはひときわ大きな屋敷がある

他とは違って厳かで威圧を感じる

紗英子は式神に引っ張られるがまま、屋敷の前についた

「ここだ。」

「ここに婆やがいるの?」

「そうだ。」

式神はしっかりと首を縦に振り、引き戸を開けた

「おい。」

式神の声に反応するように目の前の襖が少し開き、かんざしだけが隙間から見えた

「婆やが言ってた客だ。」

襖がさらに開き、赤い着物の袖が見え、きれいにゆあえている髪見え、首だけが襖の隙間から紗英子めがけてやってきた

「こんにちは。」

恐ろしいくらい低い声

首だけかと思ったら首が長く伸びている

「こんにちは。」

紗英子はおそるおそる返事をし、首を見た

「おい、怖がってるじゃないか、出てこい。」

式神は足踏みをした

「そんなこと言わないで、私だって怖いのよー。」

首は襖に入ると胴体付きで戻って来た

赤い着物を着て髪をしっかりと結わえて輝くかんざしを付けている女性だった

「お前はいつまでたっても怖がりなんだな。」

式神は腕組みをした

「だって怖いじゃない、ほんとよ、だっていきなり何をしてくるか分からないじゃない。」

「あ、あの。」

紗英子は恐る恐る話しかけた

「ほら喋った。」

女性は式神を突っついた

「そりゃお前、人間だからだよ。」

「人間は喋るもんね、あらあなた、何か御用?」

女性の声は急に甲高くなった

「急に強気になったな。」

式神はぼっそと言った

「あ、あの。」

「何?何か御用?」

「ば、婆やに合わせて下さい。」

「婆や?」

「ねえ、なんで私が言わなきゃならないのよ。」

紗英子は式神に囁いた

「婆やが言ってた子?」

「はい、多分そうだと思います。」

「じゃあお入り、うじん、案内しておやり。」

「はいはい。」

式神はめんどくさそうに返事をすると、紗英子を腕をつかんで走り出した

「な、なんで走るのよ。」

「団体客と会ったら通れなくなるだろ。」

式神はいっこうに走るスピードを落とそうとはしなかった

「ここは何なの?」

「旅館だ。」

「旅館ってあの旅館?よく大きくて団体客とか留める。」

「そうだ、他に何の旅館があるんだ。」

「でもひたすら廊下じゃない。」

「じゃあ見るか、本当の姿でも。」

式神がさっきまで壁だったところ触ると壁は動き出した

目の前には豪華で華やかな旅館があった

たくさんの人に女中もいる

たくさんの物が飛び交っている

「栄えているだろ。」

「ええ。」

紗英子は目を見張った

ただの廊下だったのに壁を動かしたらこんな華やかな旅館になっていたのか

「見たら行くぞ。」

式神がますますスピードを上げて走りだした

「は、速いんだってば。」

紗英子も慌てて追いかけた

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