第3話

しばらく進んだてあろうか

ひときわ大きなドアの前で式神は止まった

「ここだ。」

目の前には大きなドアがある

ノブの位置が紗英子の背よりも高い

「ノブに届かないんだけど。」

「こんにちは。」

紗英子は大きくのけぞった

なまったような声

「どこからなの?」

「こんにちは、ちょいと位置が高すぎたかな。」

紗英子はノブに目がついていることに気づいた

「の、ノブに目がついてる。」

「これは複眼だよ、婆様、連れて参りました。」

「お入り。」

目はまた元のノブに戻ったかと思うと取っ手が回転し、ごーというすごい音を立ててゆっくりとドアが開いた

中には思わず目を見張るようなきらきらに輝く宝石がちりばめられた壁、そしてシルクの絨毯が隙間なく敷き詰められ、天井には天女の絵が描かれている

「すごい豪華。」

紗英子は息をのんだ

こんな豪華なところに一体全体誰が住んでいるんだろう

「お入り。」

紗英子は恐々と絨毯の上を歩いた

「うじんはそこに残っていな。」

「はい。」

うじんはかしこまった

「お前さんは来るんだよ、今案内してやる。」

声が聞こえるないやな長い廊下に灯りが浮き出した

「灯りにたどってこい。」

「は、はい。」

紗英子は恐々に歩いた


しばらく廊下を進み、紗英子はようやく婆やの部屋にたどり着いた

本で壁が覆われている部屋の中央に大きなソファがあり、さらにその奥には大きな机といすがある

「あ、あの。」

紗英子は部屋を見渡した

婆やの姿はどこにも見えなかった

「こっちに来なきゃ話ができんだろ。」

大きな椅子の中に小さな白髪頭の女性がいた

「は、はい。」

紗英子は小走りで婆やの前に行った

「こ、こんにちは。」

「はい、こんにちは。」

婆やは羽ペンを置いた

「君だね。」

「は、はい。」

婆やはまじまじと紗英子を見た

「君の名前は?」

「さ、紗英子です。」

「紗栄子ね。」

婆やは洋紙に朱肉で名前を書いた

文字は浮かび上がると宙で分解し、美月と現れた

「美月か、これから美月と名乗れ。」

「は、はい。」

「それから働く場所は…。」

「叔母さん、これ持って行けばいい?」

いつの間にか美月の後ろには若い女の人が洗濯物が入った籠を持っていた

「星光亭は確か若い手伝いを募集しておったよな。」

「はい。」

「美月、星光亭で働け、いいだろ。」

「別にいいですけど、それよりこの洗濯物、どこに置いとけばいいですか?」

「下の内服局に置いといてくれればいい。」

「はいはい、美月と言ったか。」

「はい。」

美月は女性をまじまじと見た

「来い、案内してやる。」

「は、はい。」

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