有限の夜を無限に変えて

 読了して考える。
 本作のターゲットはどの辺りの層だろうかと。

 下は、思春期に手が届きそうな少し背伸びする少女から
 上は、初老のナイスミドルまでだろうか。

 『歳の差甘々溺愛冒険』モノなので、中年男性にとって「これメッチャいいじゃん」と、はしゃぎまわると、社会的な地位を失いかねない危険なジャンルではありますが、幸いなことにPTAに怒られそうなレーティングは設定されておりません。
 とはいえ、甘いです。下手な情交描写よりも情緒に訴えかけてきます。有罪です。

 もちろん、最初から甘々ではありません。

「男として、乙女の唇をけがした責任は取らねばならん」

 男の側から言えば、ただの義務感から始まった関係でした。

「運命は死にそうな顔でオマエの足元に転がってくるかもしれない。その時は覚悟を決めて行くんだよ」

 少女の側から見れば、師匠の教えに従っただけかもしれません。

 にも関わらず、二人の旅は必然だった。
 得たものは、何もかもが不可欠なピースであり、二人の絆が深まらなければ姿を見せない欠片もあった。
 二人は何一つ取りこぼすことなくそれを手に入れ、たった一つの場所に至る。
 そこには、いつか終わる有限の夜ではなく、繰り返されるいくつもの夜がありました。

 そこを見届けることができたことを嬉しく思います。


 作者様の文章について一言。

 読み易い確かな文章力はもちろんですが、なによりも機微の表現が秀逸と感じます。
 さりげない一文の中にとても多くの感情を潜ませている。
 単純な情景描写や直接的な心情描写ではない「読者へ届け!」とばかりに散りばめた言の葉がとても心地よいのです。


 しばらくは幸せな読後感に浸ります。
 そしていつか、心が甘みを求めたら、この物語を何度でも紐解こうと思います。

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