本作、時間軸で言えば人生の中に於けるちょっとした瞬間を切り取っていますが、そこから読み解ける世界は広い。
親から子へ、その子が親になり、また親から子へ、という連綿と続く人の営みを想起させます。
現象としての“ささくれ”から始まり、ささくれた感情を絡めながら、サイコサスペンスやホラーの香りも醸しつつ、主人公の葛藤は続く。
彼はその過程で、一つの現象に対しさまざまな見方、接し方があることを思い出す。
母から得た教訓を、今の自分と、そこに存在する新たな視点と共に、足掻き藻掻き、それでも這い上がろうとする想いに強い共感を抱きました。
そしてラストシーン。
この自身の立場が変わる瞬間に、本作が人の営みを端的に表す普遍的な物語と気づきます。
作者様は意図していないかもしれないですが、立場によって変わる視点や、立場によって示唆すべき場面は、ずっと続く系譜の変遷を感じたのです。
親から受けた想い、そして、それを今度は子につなぐ。
彼はささくれの処し方を、きっと新たな視点で語れるようになったんだ、と嬉しく思います。