陸上部の落ちこぼれ女子、燕が最後の大会に挑む物語。
極めて個人的な視点から感想を書かせてもらいますと……、何の芽も出なかった陸上経験者、特に長距離走者にはマジでおすすめです。いやあもう、分かる分かる超分かる! イヤだよね! 何でこんなことやってんのか意味分かんないよね! 二度と走るかチクショウめ! というあの感覚……。あまりの解像度の高さに、読んでるこっちまで息が苦しく胸が手足が痛いのなんの……。
でも……、確かになんか、青春してたかもなあ、って。あの頃になーんもドラマなんかありゃしないんですけどね! 何ならサッカーやバスケやあまつさえテニス部の連中のほうがよほど速かったですし!
経験者に対するフラッシュバックがものすごい作品です。これは素晴らしいという以外に感想がありませんね。思い出させてくれてありがとうございます。
陸上部の高校3年生、長距離走者の燕。彼女にとって最後となった大会の物語です。
陸上部に入るような人は皆、走ることが好きなのかといえば、全くそんなことはありません。
疲れるから嫌だ。苦しいから嫌だ。走るのが怖い、走りたくない。
そんな風に思いながら部活を続けてきた陸上部員だって、たくさんいます。現に、私もその一人です。
それでも走ることをやめられなかった。走るのは嫌いだけれど、好きだった。どうしてだと思いますか?
その理由がこの小説に描かれています。
スポーツの世界で注目されるのはトップ層ばかり。誰もが表舞台に立てるわけではなく、人知れず競技人生に幕を引く選手は数え切れないほどいます。
そこで生まれるのは、頂点を巡る熾烈な争い、ぎらつく栄光の物語ばかりではありません。羽ばたけなかった鳥のような、あるいは儚く散った花のような、しかし確かな輝きを秘めた物語が、本当はそこら中に溢れています。
ほら、ここにも。
夏を待たずして引退することとなった私にとって、非常に共感できる点が多くありました。これが「リアル」なのです。
ある意味平凡な一選手の、紛れもない青春を切り取った素敵な小説でした。
運動部で青春をテーマにしているのであれば、普通は主人公に実力も情熱もあって、トップを争う中での有終の美を書きたくなるものなのですが、この作品はそうではなく、実力も情熱もない、逆に嫌々惰性で部活動を続けていた主人公が最後の競技を終えて何かに気づく……
という物語になっているのがユニークで面白く、感心させられる作品でした。
最後の競技を前に緊張し、嫌がる燕さんのキャラクターの描写がコミカルかつ生々しくて良いですね。ひどく曖昧でおぼろげな燕さんの心情が丁寧に描写されていて、自分の競技が終わった後、他の競技の輝く情熱、華やかな青春を俯瞰して自分の心情と照らし合わせる情景がノスタルジックで共感できました。