そう、まさしくこれが私たちの青春。私たちの陸上なのです。

陸上部の高校3年生、長距離走者の燕。彼女にとって最後となった大会の物語です。


陸上部に入るような人は皆、走ることが好きなのかといえば、全くそんなことはありません。
疲れるから嫌だ。苦しいから嫌だ。走るのが怖い、走りたくない。
そんな風に思いながら部活を続けてきた陸上部員だって、たくさんいます。現に、私もその一人です。
それでも走ることをやめられなかった。走るのは嫌いだけれど、好きだった。どうしてだと思いますか?
その理由がこの小説に描かれています。


スポーツの世界で注目されるのはトップ層ばかり。誰もが表舞台に立てるわけではなく、人知れず競技人生に幕を引く選手は数え切れないほどいます。
そこで生まれるのは、頂点を巡る熾烈な争い、ぎらつく栄光の物語ばかりではありません。羽ばたけなかった鳥のような、あるいは儚く散った花のような、しかし確かな輝きを秘めた物語が、本当はそこら中に溢れています。
ほら、ここにも。


夏を待たずして引退することとなった私にとって、非常に共感できる点が多くありました。これが「リアル」なのです。
ある意味平凡な一選手の、紛れもない青春を切り取った素敵な小説でした。