第5話 マイペースな人って……

数分前にカフェを出た、僕と天津さんは"セイロンライティア"があるというフラワーカフェへと向かっていた。

僕は(またカフェなの……⁉︎)と呆れ半分驚き半分くらいの心境で、彼女の誘導に従っていた。

フラワーカフェがあるのは、ここから地下鉄で10~15分くらいだと彼女が教えてくれた。


電車に揺られる間、彼女に話しかけてみる。

「あの、天津さん」

「何?っていうか名字呼びじゃなくて良いよ〜もっとフランクに接して。私のことは、楢で良いから。私も連恩くんって呼んで良い?」

(やっぱ距離感バグってるんじゃないか、この人)

そうは思ったけれど、口には出さなかった。

だから素直に彼女の言葉に従う。

「分かった、じゃあ楢さん」

さん付けだけど、そのまま呼べば、何故かパッと周りの空気が華やいだ。

「ふふ、何かね〜連恩くん」

ちょっと調子に乗ったように、彼女が応える。

(そんなに嬉しいのか……)

僕の体温が少し上がったように思えた。


「楢さんは何でセイロンライティアが好きなんですか?」

さっき、この花の名前を聞いてからずっと気になっていた。世界中、いろんな花がある。そんな中でも、超マイナーなこの花に、なぜ彼女が興味を持ったのか。素直に僕は気になっていた。


「んー、それは少し難しいヒツモンダネ」

無駄に勿体振る彼女の顔には、何だかちょび髭が似合いそうだ。

「"質問"ですね。難しいようなら良いんですけど」

僕はそんな彼女の間違いを訂正しながらも答えを待つ。わざとか、天然か、そんなのはどっちでもいい。それが、彼女の魅力のような気がする。

「いやぁ、全然。でも、理由かー。そうだな……連恩くんはさ、ついこの前出会ったばっかりだったけど、初見で私のことどう思った?」

「え?」

思ってもない方向から話題を振られる。

「天津さ——楢さんのことですか。うーん……僕は率直に綺麗だなって思いました」

いや、正確には違う。本当は真っ先に彼女が天使なんじゃないかと思った。あのカフェの店員と同じように。


しかし、そう応えると彼女は、すごく吃驚したようで電車内にも関わらず、大きめの声を上げる。

「えぇ!それだけ?天使みたいって思わなかったの⁉︎」

「ちょっと、声デカイです!」

僕は当然、人の目が怖いので彼女を黙らせる。周りの視線が辛い……。

車内には、同世代の若者やママ友同士など外出目的の人が多いようで、普段よりいくらか賑やかだったが、今のは目立ち過ぎる。


しかし彼女は、同じ車両内のほとんど全ての視線をあつめたのにも関わらず続ける。

「そっか〜なんか新鮮だな。私って本当に白い物しか身に付けないから、周りの人に同じこと聞くと白いねーとしか言われないんだよね」

鋼の精神とはこのことか……。


「だから、楢さんっ!声がデカイですって!もう少しボリューム下げて」

負けじと僕も彼女に訴える。

も、そんな努力は虚しく

「んふふっ!ふあははは!」

と何が面白いのか彼女は堰を切ったように笑いだしたのだ。


そのせいで、その場に居合わせた数十名の乗客から僕らは(なぜか主に僕)はヤバイやつ認定され、冷え切った視線を送られることとなったのだった。

また、笑い転げる彼女を連れて目的の駅よりも数駅前で降り、結局僕は彼女があの花を好むのかその理由を聞けず仕舞い、しかし何とかフラワーカフェにたどり着くことが出来た。


(さっきまで素敵だとか思ってたけど、やっぱヤバイやつだ……!この人!)

と僕は早々ながらに後悔し始めたのだった。



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人間みたいな恋をする。 鍛治原アオキ @kajiwarasan

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