本の帯には予知夢と書かれていました

 自分の部屋に帰ってから、ずっと夏海さんの言葉の意味を考えています。

「最後とはどういう意味でしょうか」

 言葉の意味は分かります。もう、無いということです。


「私にキスをするのが最後ということでしょうか」

 私は嫌ではなかったのに?

 夏海さんもきっと嫌ではなかったはずです。嫌ならばするはずがありません。


「分かりません」


 ベッドに制服のまま飛び込みそのまま枕を抱えてゴロゴロします。

 服がシワになる悪癖だとは理解していますが、勉強でもなんでも行き詰まるとついやってしまいます。



 いつの間にか眠ってしまっていたようで、夢を見ました。


 何もない荒涼とした大地で蛇塚さんが、図書室の影たちによって押さえつけられています。大柄な蛇塚さんが、肩を揺らしもがいていますが、動いた箇所から丁寧に影たちが押さえ込んでいきます。

 あっという間に影に雁字搦めにされた蛇塚さんは、指さきひとつ、眼球ですら動かせなくなってしまいました。

 自らの視線を鏡の盾で跳ね返されたゴルゴーンが石になったように身動ぎできなくなりました。

 ピクリとも動かない蛇塚さんの胸元に1人の影が手をのばしていきます。


 一体何をするつもりなのでしょうか。


 影の腕は蛇塚さんの胸を通り抜け、脈打ち動いていた心臓を鷲掴みにして止めてしまいました。


 固唾を飲んで見守っていると蛇塚さんに動きがありました。左手の指がピクリと動いたかと思うと右手、右膝と少しずつ動く箇所が増えていきました。石化したところが徐々に剥がれ落ちるように動きを取り戻していき、人間の四肢を失い影になっていきます。

 動くようになったところからどんどん、どんどん黒くなり人の姿を失っていきます。


 顔も体格も全てを影に塗りつぶされた蛇塚さんは影たちと共にどこかへと行ってしまいました。


 ぐにゃりと視界が歪み場面が変わりました。


 ここはよく知っている最寄駅のホームのようです。

 乗客の姿は2人だけです。


 私がいるホームの向かい側にいる夏海さんと真尾さんだけです。

 2人は何かを話しているようですが、ここからでは声を聞くことができません。

 

 表情を見ると2人とも談笑しているようです。

 和やかな会話なのでしょうか。2人の表情は穏やかです。


「電車が参ります。白線の内側までお下がりください」


 アナウンスと同時に夏海さんから悲壮感と覚悟が溢れ出しました。

 夏海さんはぎゅっと真尾さんの手を握ると引っ張り、線路へと飛び込んでしまいました。


「やめてっ」

 自分の叫び声で目が覚めました。

 べっとりとした油汗が全身から吹き出しています。

 着替えてしまいたいけれど、もっと大事なことがあります。


 夏海さんから届いたRINEの確認です。

 


『雪菜と一緒に何かしたこと自体は少なかったけど、すごく楽しかったよ。実は、私が真尾たちにいじめられている時、雪菜が支えだったんだ。毎朝、誰も返してくれない挨拶を雪菜なだけが、気づいて返してくれた。声は聞こえたことなかったけど、口がちゃんと動いていた。それを毎朝確認してちゃんと自分の存在は認められている。無視しない人がいるって思えたのはすごい心強かった。それにやっぱり、私についた虫を取ってくれた時の雪菜は最高にカッコよかった。どんな特撮のヒーローよりもヒーローだった。

















 ばいばい。大好きだよ私だけの日色』

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