魔王軍

 図書委員のお仕事で遅くなってしまいました。急いで、待ち合わせの生徒玄関へ向かいます。パタパタと小走りに廊下を走り、息が上がってしまいます。


 夏海さんの後ろ姿が見えました。スラリとした細いく長い足をクロスさせて立っています。大分、待たせてしまったのかもしれません。

 下駄箱の影に隠れて見えませんでしたが、夏海さん以外にも誰かがいるようです。つい、癖で気配を殺してしまいます。


「なんで、あんなやつと一緒にいるの?」

「そーそー。つまんないっしょ」

「分かっているよね?」


 顔は見せませんが声から判断するに、影にいるのは真尾さんたちのようです。

 声に険があります。非難するような侮蔑するような何とも意地の悪い声です。クラスの中での雰囲気とは雲泥の差があります。


 どうやら、会話のやり玉に上がっているのは私のことのようです。クラス内で夏海さんが新しく関わり出したのは私くらいのものです。なので、きっと私のことを真尾さんたちは言っているのでしょう。


 誰もいない、生徒玄関には彼女たちの声がよく響きます。

 私の足音も同じように響いてしまいました。

 みんなが私を見ます。


 犬上さんは獣のような鋭い目つきで。

 蛇塚さんは温度のない爬虫類のような無機質に睨みつけてきます。

 八雲さんは刺すような視線です。

 真尾さんは、興味なさそうに私という存在を無視しています。無視されているのにも関わらず、1番威圧感があります。


 小さな小さな悲鳴をあげそうになりましたが、何とか堪えることができました。

 夏海さんとも目が合ったおかげです。正確には、目を合わせられたのは夏海さんとだけです。他の方々とは直ぐに視線を避けてしまいました。

 夏海さんは申し訳なさそうな、自分の不甲斐なさに泣き出しそうな表情をしていました。

 が、目の奥には何か決意のような強い感情があった気がします。たまたま、夏海さんの瞳に斜陽の光が入ったからそう感じたのかもしれません。


「夏海、いくよ」

 私が怯えて何も言えないでいると、興味を無くしたのか真尾さんの一言でみなさん、どこかへと行ってしまいました。その最後尾に夏海さんもついていきます。すれ違いざまにちらりと私の方を見た夏海さんは、目を伏せて口の形だけでごめん。と伝えてくれました。


 どうしていいのか分からない私はただ、ただ肩を落としながら真尾さんに従う夏海さんの背中を見送るしかありませんでした。

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