ブック・トーク

 RINEでいくつかの事実を夏海さんに確認しました。


 犬に噛まれたのは犬上さんが原因。

 プールに閉じ込められたのは八雲さんが画策したこと。

 腕をギプスで固めるほどの怪我の原因は蛇塚さんによるもの。


 すべて『そう』というお返事をいただきました。


 重ねて質問を投げかけます。

 放課後、犬上さんの下顎を蹴った。

 同じ時に、八雲さんの胸部に正拳を突き立てた。


『何で知ってるの?』

 

 質問に質問で返されてしまいましたが、驚愕は肯定の証です。


 私は、夏海さんに裏図書室の存在と物語の内容を理解が得られるまでお話ししました。

 その結果得られた仮説は2つです。

 

 RINEを送ります。

『1つ。物語の魔物は真尾さん、犬上さん、八雲さん、蛇塚さんが当てはめられている。

 2つ。本の内容は実際に起こる。しかし、ファンタジーすぎるものは現実で起こりうるものに改変される。』


 文字を打つのが焦ったくなったのか夏海さんからの着信が入りました。


「根拠はあるの? 信じられないんだけど」

「根拠としましては、夏海さんが勇者だと仮定した場合、犬上さんは戯れるように犬を模した手で噛んでいます」

「順番がおかしくない? 私は犬に噛まれてから犬上に噛まれる真似をされたよ」

「きっと犬上さんに噛まれるという事実と犬に噛まれて怪我をするという結果の順番はどちらが先でもいいのだと思います。原因と結果の順番はあまり意味を成さないのかもしれません」


 スマホ越しですと夏海さんが納得したのか分かりませんが、推理のお披露目を続けていきます。

 推理小説の探偵が推理を止めないのは楽しいからなのですね。


「八雲さんは、蜘蛛の魔物で石造りの古い廃城に住んでいました。校舎内の石造りの古い建物と言ったら——」

「プールの更衣室。確かにあそこはブロック塀を積み重ねてあるしコンクリートの打ちっぱなしだけど」

「虫がいっぱいいます」

「ひぃい」

 

 虫という単語に反応した夏海さんが悲鳴を上げます。


 それが可愛くて可愛くて癖になってしまいそうです。もしかしたら、真尾さんたちも初めは夏海さんの反応が可愛くてついからかってしまったのかもしれません。それがだんだんエスカレートしてしまったのでしょうか。


 私は気をつけなくては。気持ちを引き締めます。


「おそらく、[虫による恐怖や不快感]がキーワードなのです」

「それなら、納得。死ぬほど怖かった」

「それに本の中で蜘蛛の魔物は胸に聖剣を突き立てられて絶命していました」

「いや、流石に私は剣でなんか人を刺したことないよ? 弟とヒーロ玩具でチャンバラなら時折やるけどさ」

「いえ、夏海さんは間違いなく正拳を突きたてています」

「・・・・・・ひょっとして正拳突き?」

「はい」

「駄洒落じゃん・・・・・・」

「駄洒落ですが、裏図書室の本は文字は読めないんです。意味が分かるだけなので・・・・・・なので、同じ音であれば許容されてしまうのかもしれません」


 聖剣と正拳。

 流石に苦しいでしょうか。


「ゴルゴーンによる石化は石膏で固められたことで再現されたのだと思います」

「裏図書室のことは大体わかった。その本は妥当魔王のための攻略本に近いわけだ」

「攻略本ですか?」

「そ。これから起こることと相手の倒し方が乗ってる本。かなりのアドバンテージだね」

 

 そのような考え方もできるのですね。私はずっと呪いの本だと思っていました。書いてあることが現実に起きてしまう呪われた一冊。それを攻略本だなんて。

 

 なんて前向きなのでしょう。



 

 それから色々と脱線しながらも話し合い、遂に妥当真尾さんのための秘策を思いつきました。

 

 ですが、確証がないので夏海さんには黙っていることにします。

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