Epilogue

8-1

「――命を与えたまう主である神よ、聖別されたこの水の神秘によって、新しい命に導いてください……主イエス・キリストの力によって、あなたが強められますように。父と子と聖霊の御名によって、あなたに洗礼を授けます」

 両親と代父母に抱き上げられた赤ん坊に、クリスが洗礼をほどこしていく。ワケもわからずいきなりおでこに水をかけられて、びっくりしてギャン泣きする子もいれば、全然動じないやつもいる(将来有望かもしれない)。

 葬式と違うのは、主役が泣いていてもほかのみんなはニコニコ笑ってるとこで、この雰囲気が俺は気に入っている。

 ダニーだって、死んだクリスの友達だって、たぶん、生まれたばっかりのときはこんなふうに喜んで家族に迎え入れられたはずなのに、大きくなって、親やら教会やらの言うことを聞かなくなったからって放り出すのは、やっぱひでえよな。神様が世界を――人間も含めて――つくったんなら、全人類が家族ってことになるんだろうから、ひねくれ者の面倒みてやるのも家族の責任ってやつだろ? で、俺もその創造物のひとつに入ってるんだとしたら、俺を食わせるのも、神様の――つまりは教会の――仕事ってことになる。違うかな?

 聖歌とパイプオルガンの音をかき消すような赤ん坊の泣き声をBGMに、俺は今日の昼飯のことを考えた。



 Fin.

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神の慈悲なくば ~In a real dark night of the soul~ 吉村杏 @a-yoshimura

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