第10話 連絡
そして、約一か月後、私の所属する部隊全員が反体制組織代表、エストレヤ・フランクさんの下に集められた。なにやら大事な報せがあるらしい。こういう時って、本当に嫌な予感しかしない。
「話ってなんですかね」
「さあ、どうせまた大きな作戦の説明か何かじゃないですかあ?」
「二人とも私語は慎め。来たぞ」
アイシャ会長が小声で言うと、大きな部屋にフランクさんとキャプテンが入ってきた。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。今回は皆様にどうしてもお伝えしなければならないことがあります」
フランクさんの神妙な面持ちを見たメンバーたちは黙って話の続きを聞く。
「先のクリステンセン氏の逝去に伴い、我々反体制組織とレジスタンスは、我が国の首相、グリムノーツ・エンゲルの身柄を確保することを決定しました」
「え……?」
フランクさんは堅い表情で私たちが耳を疑う一言を口にした。周りのメンバーからもどよめきが起こっている。
「クリステンセン氏の死が自然死だったのか、それとも何者かによる他殺かどうかを確かめる術はありません。しかし、もうこれ以上我らの指針となる存在を失うわけにはいかないのです」
この国の最高権力者を捕らえるという内容。私に限らず、リリナちゃんも、アイシャ会長も目を大きく開いたまま固まっている。
「既に細かい作戦内容の考案に当たっている状態だ。詳細が決まり次第また連絡する」
次の日、私とリリナちゃんは学校の生徒会室にいた。この学校では生徒の事は生徒同士で基本決めると決められていて、生徒会長はそのまとめ役、いわゆる最高権力者的なポジションにいる。そのため、生徒会室は応接間かというほどちゃんとしたソファなどが置かれていて豪華な仕様となっている。
「私びっくりしちゃいましたよ。突然あんな事を言われるなんて」
「私もですう。いきなり宇宙へ行くって言ってるようなもんですよお。あ、会長、この部屋大丈夫ですう?」
「大丈夫だ。全部取り除いてある」
リリナちゃんと会長が何の話をしているかというと、盗聴器の話だ。この国では家にある掃除機と同じくらいに普通に盗聴器が仕掛けられている。当然、反体制派を炙り出すためだ。
「まあ、いずれこうなるであろうことは何となくだがわかっていた。我らの象徴が死んだとなれば一斉蜂起を起こしてもおかしくはなかった。おそらくフランク氏はそれを何とか抑えた。その結果だろう」
「そりゃあ、一斉蜂起して全滅するのは防げたかもしれませんけど、首相を捕まえるって、失敗したら総攻撃食らっても仕方ないですよ? できるんですかね?」
「しかも私たちの部隊がメインみたいですよお? なんだか気が滅入ってしまいますう」
私とリリナちゃんは揃って深いため息をついた。そりゃこの国の絶対権力者で一番守りが堅い存在を捕まえろと言われたら、誰だって無理だと思わざるを得ない。
「気持ちはわかる。だがこのままではこちら側もじり貧だ。どれだけ地下で抵抗を続けていたとしても、最終的に国民全員が蜂起しなければ何も変わらない。そのためには誰かが先陣を切らなければならないだろう。そのための反体制派やレジスタンスというわけだ」
「まあ、そうですけど……」
確かに私たちがいる目的は、最終的にこの国に自由を取り戻すことだ。そのためには私たちが先頭で血を流して後に続く人たちを増やす必要がある。でも、今この状態が果たして政権の中枢を攻撃するに足る準備ができていると言えるのか、私にはわからない。
「会長はできると思うんですか?」
「できるできないではなく、やるしかないのだろう。それが組織の意志ならば」
「強いですねえ。さすが会長」
私とリリナちゃんは、凛々しい瞳で勇ましい言葉を放つアイシャ会長を改めて強いひとだと思い、舌を巻いたのだった。
獣王無尽のナイチンゲール たけもふ @takeshi029
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