月の夜空に浮かぶ君

第10話 新月の夜 手紙

冬夜くんへ

『まずはお礼を言わせてください。あの日から毎日お見舞いに来てくれてありがとう。

多分今、冬夜くんは驚いてると思う。

その顔が見られなくて残念だな。

まぁそれは置いといて。

私の病気について冬夜くんは何も聞かなかったよね。

冬夜くんは……興味が無かっただけなのかもしれないけど。

でも冬夜くんには私の病気の事、知っておいてほしいの。

こっちに来て初めてできた友だちだから。

面と向かっては言えなかったから手紙に書くね。

私の病気は世界でも数件しかない珍しい病気みたいで、名前は満月病っていうみたい。

これは初めて会った日に言ったよね。

この満月病は新月の日に発病して、そこから二回目の満月の日に死んじゃう病気なんだ。

簡単に言うと余命二ヶ月の病気ってことになるのかな。

月が出ているときしか活動が出来ない。

満月のときは体調も普通の人と変わらない。

けど、新月のときはこうやって死んだように眠るのが特徴みたいなんだ。

原因不明、治療法も無い。要するにどうにもできない病気。

普通の人とは違う時間に取り残されて、普通の人よりも短い時間で命が尽きる。

私だって、出来ることなら普通の人と同じ時間に生きたい。

だけどそれはもうできない。

なら、いっそ最後まで楽しく生きてやろうって決めたんだ。

だからあの日、冬夜くんに無理言ってお願いしたんだ。

今更だけど冬夜くんには私のわがままに付き合わせちゃってごめんね。

冬夜くんと話をしている間は病気のことを忘れられる。

自分勝手なお願いだって分かってる。

だけど、もし良かったらあと二週間、次の満月まで私と過ごしてください。』

海野陽菜

　読み終わった僕はその手紙を握りしめる。

　クシャクシャに折れ曲がった紙の感触だけが手に残る。

　僕はそのまま彼女の顔を見ることなく、病室を飛び出した。