ーウィルのその後を知りたい方のためにー

 ヴァーマルの森の人喰いの魔物と呼ばれた連続食人殺人鬼ウィルは利発で聡明な男の子で、とても慎重な性格のため、今まで犯人と目されたことは無かった。

 だが今回ウィルは一つだけミスを犯した。アメリアという素晴らしい食材を目の前にしてひどく興奮していたためである。


 馬を解き放ったことである。

 賢い馬は何日後かに見知った街道にたどり着き、最終的に自分の厩舎に戻った。ここまではウィルの想像通りであった。

 計算違いはその馬がウィルの住居の場所も覚えてしまっていたことだ。


 アメリア失踪より一週間後、半狂乱になったロナルド公爵率いる騎士の一隊が森の中のウィルの小屋を襲った。

 ドアがけ破られた時、ウィルは大急ぎでアメリアの最後の一欠け、彼女の髪を素揚げした料理を口の中に押し込んでいる所だった。ロナルド公爵はそれをウィルの口から取り戻そうとしたが一瞬遅れて果たせなかった。


 その年の公爵の秘密の食事会は実に三日間にも渡る豪勢なものになった。

 最初に予定されていた食材こそ手に入らなかったものの、この有名な連続殺人鬼という新しい食材は、貴族たちの食欲をいたく刺激したのだ。

 半年かけてあらゆる食料を詰め込まれ肥大化したウィルの体は十字架に括り付けられた。そうしておいてから、ウィルの体の端から少しづつ食材は毟り取られた。その悲鳴を素晴らしいスパイスとして、秘密クラブの貴族たちは次々と調理される料理を食材本人の目の前で貪り食った。

 色とりどりの野菜に飾られ、ウィルの手や足が見事な料理に変えられ貴族たちの胃袋に消えていく。流れ出た血はワインに加えられそれぞれの喉を潤した。

 腸を引きずり出されるまではウィルは生きていたが、さすがに肝臓を抜き取られたときにはすでにこと切れていた。

 最後に残った骨が綺麗に割られて骨髄スープが作られた後にようやく悪魔の宴が終わると、ウィルの骨はアメリアの代わりに棺に納められた。


 こうして希代の連続食人殺人鬼ウィルの人生は終わりを告げたが、実はもう少しだけこの先がある。



 自分のミスに気付いたときにウィルはその手立てを用意していた。

 アメリアのすべてが自分の中に消えたときにすでに覚悟は決めていた。

 生まれてきて初めて満足した食欲と引き換えに、胸の中に空いた巨大な虚無。

 そう、ウィルはアメリアを愛してしまっていたのだ。

 最愛の者を失えば、もはや生きていくことはできない。


 ある種の毒キノコはその成分は定かではなく、しかも食してから一か月も経ってから、その真の効果が現れる。強烈な苦痛と共に。

 ウィルは森に棲む者としてそれを理解していた。


 ウィルの肉にたっぷりと染みこんだ毒は、その料理を通じて貴族たちの腹の中に消えた。

 これから一か月の時間が経てば、その効果は現出する。体が腐り果てる激痛は果たして彼らの贖罪の糧として釣り合うものなのだろうか?



 どのような形であれ愛ほど恐ろしいものは無い。それは周囲を否応なく巻き込んで燃え上がるものなのだから。

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短編ホラー:ボーイ・ミート・ア・ガール(boy meet a girl.) のいげる @noigel

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