雨に溺れる
白江桔梗
雨に溺れる
僕は一人、傘をさして歩いていた。ぽつぽつと咲き始めてしまった季節外れの
いつもより
歩道橋を超えると、次第に人が増えてくる。いつもなら自転車で
この視界に映るのはグレースケールで見える世界。
酷く湿った空気を吸う。この中はまるで
それが嫌だから僕は、安全地帯が欲しくて傘をさしているのかもしれない。決して沈まないように、この身が水で満ちないように、必死に無駄な
経年劣化のせいか、酸性雨のせいか、
僕の心に紫陽花を挿せば、玉虫色だと思い込んでいるこの感情が何なのか分かるだろうか。この名状しがたき感情の正体が暴けるだろうか。いつものように僕が声を出すと、にこやかに君は手を振る。
「おはよう。君だけだよ、私のこと『雨』って呼ぶの」
僕の想いを吸って育った紫陽花は
この世界で唯一色を有する君に、この傘の中でだけ独占できるその笑顔に、酸素をゆっくり零しながら堕ちていく。
六月の平日、心地の良いこの感情に身を
雨に溺れる 白江桔梗 @Shiroe_kikyo
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