十三小体育館の解決 その②

 下校した鮎村あゆむらさんをのぞいて、全員が教室に集まった。

 ぼく。完太かんたくん。砂川すながわ兄弟。そして――なぎちゃんだ。

 ぼくは真相を語りだした。


「トリックは二つ。『困難こんなん分割ぶんかつ』と『即席の共犯者』だ。

「十三小体育館からの脱出には、さまざまな困難こんなんがつきまとった。南京錠なんきんじょうでカギをかけられた入り口。なぎちゃんでは通り抜けられない地窓。マットやハシゴなしでは出られない二階の窓。

「そこで君は共犯者をつくることにした。必要な条件は君のそばにいて、かつ、でなくてはならない」

 完太かんたくんは息をはいた。

「まさか……」

「そう――鮎村あゆむら。二人のあいだにどんな会話があったのかはわからないけれど……」

「彼女はフットレルを読んでいたのだよ」

 なぎちゃんが口をはさんだ。

「『十三号独房どくぼうの問題』――ジャック・フットレルの代表作さ。思考機械シンキング・マシンという名探偵が、その知力を証明するために密室みっしつから脱出するというあらすじでね」

「彼女は君に協力して、好きなミステリを再現することにしたんだね」


「かくして彼女は共犯者となった。あとは簡単さ。地窓のすき間は幅60cmほど。ぼくたちやなぎちゃんには無理でも――小柄こがら鮎村あゆむら

「脱出した鮎村あゆむらさんは物置からハシゴを持ってきて、二階へ立てかけた。鮎村あゆむらさんが下で支えてなぎちゃんは二階の窓から脱出する。なぎちゃんが下で支えて鮎村あゆむらさんが中に入る。ここで内と外での人間の交換がおこなわれたわけだ」


 使。これもぼくにとっては、共犯者をしめす手がかりとなった。


「体育館にもどった鮎村あゆむらさんは、二階の窓と地窓の内カギをしめてから寝たふりをする。これが真相だったのさ」

「じゃあ。カギを開けてから鮎村あゆむらが言ってたことは、ぜんぶウソってことかよ!?」

「ハリウッド女優じょゆうも顔負けデスね」

「ノーベル賞モノの演技デスね!」

 それを言うならアカデミー賞だが。


 ともあれ、ぼくたちはなぎちゃんの悪ふざけにまんまと付き合わされてしまったというわけだ。くやしげに地団駄じだんだを踏む三人組をよそに、なぎちゃんは嘆息たんそくする。


「そんな顔をしないでくれたまえ。私も代償だいしょうを支払ったのだから」

 彼は続けた。

「今日は新作ミステリの発売日だ。鮎村あゆむらくんがいそいで帰ったのもそのためだろう。当然、私も読む予定だ。読まないと催促さいそくのメッセージが止まらないだろうからね」


 メッセージ?


 ぼくはこのとき、初めて気づいた。

 なぎちゃんはスマートフォンを学校に持ってきていない。となれば、4時少し前に彼のアカウントからグループチャットにメッセージを送ったのは鮎村あゆむらさんということになる。つまりなぎちゃんは、一時的にせよ、彼女にアカウントをあずけてしまったのだ。


「帰宅してからスマートフォンをみると、友達ともだち。……はぁ。共犯者をつくった代償だいしょうは、高くついてしまったというわけだ」


 なぎちゃんは本気で困っているようにみえる。自分でもそう信じているのだろう。

 だが、ぼくは知っている。

 君は、自分が思っているほどには人ぎらいではないということをね。


<了>

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十三小体育館の問題 秋野てくと @Arcright101

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