主役は悪役令嬢、つまり「モブ」。必然的に対戦相手が「主人公」なので毎回チート持ちに挑まなければならない。
TCGに興味ない人向けに言うとこれあれです、最弱スキルでチート持ちをどうこうするやつです。
悪役令嬢要素と昆虫族デッキ使いという組み合わせが、奇跡的に四季折々のマリアージュを織りなしている。
遊〇王を知らない人にも、HAGAがATMと戦っていると言えば伝わるのではないだろうか。(まだ俺のバトルフェイズは終了していないZE☆)(バーサーカーソウル!)
そして、何と言ってもこの作品。百合である。(百合かどうか判断は個人の自由)
『遊戯王OCG』や『マジック:ザ・ギャザリング』、『デュエル・マスターズ』といったTCG(トレーディングカードゲーム)、そしてそれらを題材にしたホビーアニメをフィーチャーした異世界ファンタジー小説。
「土壇場で必ず切り札を引く」とか、「世界観が全然違うモンスターが対決する」といったカードアニメのあるあるをふんだんに盛り込みつつ、所謂悪役令嬢である主人公が強敵に知恵と工夫とプレイングで立ち向かう、という王道を(優雅に)貫いている。
……いや、ふんだんというには『こいつ、書籍化とかぜんぜん意識してないのか?』ってぐらい、カードやそれ以外のパロディ要素が溢れかえってサービス満点なんだけど……。
興味深い点として、カードの効果のぶつけ合いが一種「異能力バトル」のように展開する点がある。『呪術廻戦』や『ハンター・ハンター』を彷彿とさせるルールとロジックのぶつけ合いは、実はカードゲームで行われているカードのやりとりと近しい部分がある。
それが実際のゲームバランスをある種度外視した、小説ならではの派手な演出で表現されるのが面白く、カードゲームを普段やらない層でも楽しく読めるだろう。一方で、試合の展開や決着については「インチキ効果もたいがいにしろ!」と思うことは多々あるものの、情報の開示が巧みで、納得のいくものになっているバランス感が素晴らしい。
もちろん、自分のようなカードゲーマーにとっては、カードゲームのテキストの醍醐味……ルールや効果処理の組み合わせの妙を入れ込んでくるところに「そんなん紙のオタクしかわからんやろ」と楽しくなってしまうので、文句なしにおすすめだ。
悪役令嬢転生。
今や一代ジャンルとなったこのテンプレートは、乙女ゲームの世界において主人公に嫌がらせをし、最終的に破滅するキャラクターに転生してしまった人物がその未来を覆すために奮闘するというのが定番だ。
だがしかし、実際の乙女ゲームには悪役令嬢というものはほとんど出てこないというのも昨今では広く知られるところである。
それも当然で、乙女ゲームはイケメンを攻略するゲームなのだから、嫌がらせしてくる女性キャラに使う尺も立ち絵も無駄なのだ。そんなに際立った個性でストーリーに絡んでくるキャラクターなら、イケメンにして攻略対象にしてしまった方が良い。
(余談だが、少女漫画には悪役令嬢類型が数多く登場する。悪役令嬢モノの原型はむしろこちらに求めるべきだろう)
だが――この作品の作中作『デュエル・マニアクス』は違う!
何故ならこのゲームはカードゲームと組み合わさった、全く新しい乙女ゲーム!
そしてそのチュートリアル対戦相手として主人公にボコられ破滅するちょい役こそが、本作における悪役令嬢なのだから!!
そんな悪役令嬢、ウルカ・メサイアに転生してしまった主人公がカードで破滅の運命を切り開くのが本作である。
何が素晴らしいって、作者によるオマージュ元へのリスペクトだ。
まず主人公たるウルカ・メサイアのデッキはインセクト・デッキ――虫使いである。しかも、転生前は寄生虫カードを相手のデッキに混ぜたりする、どっかのカードゲーム漫画(あるいはアニメ)ですごく見たことある感じだ。相手の切り札とか海に捨てそう。
パロディ好きな作者による数々の仕込みもありつつ、しかししっかりとした知識で描かれる決闘(デュエル)シーンは「おもしれえ~~~~」の一言。
カードゲームアニメにはありがちな強力すぎる切り札や運命を捻じ曲げるドローに対し、ウルカは持ち前のリアル・カードゲーム知識による戦略と、そして大好きなカードゲームアニメから学んだ「最後まで諦めない心」を武器に戦い抜く。
まさに異端にして王道の悪役令嬢転生にしてカードゲーム小説。第一章を読んでもらえればその熱さはきっと伝わるはず。あなたもリアルカードをドローしたくなること請負いだ。
カードで宿命を切り開くウルカ・メサイアの気高き雄姿、是非ともその目に焼き付けてもらいたい。