引き算が上手い。
アイコニックな人物を話の中心に立て屁理屈を展開する構造は軽い読み物として良く機能していて、別に人気連載抱える作家の風格がある。お姉さんの造形自体は個人的には好みじゃない。
現在のエピソードならば。
初回の《雑語りのススメ》が頓狂な人物像を見せ付ける仕草と展開する屁理屈の語りのバランスが一番取れていた気がする。二回目は前者が過剰、三回目は後者が淡白。でも作品モデル自体は安定感のある筆致があり、安心して嗜める。
屁理屈で一瞬でも納得を勝ち取れば勝ちと言わんばかりの作風は、同様の理屈が当て嵌る推理小説めいた気風も感じられ、この上で変にテンポを落とさない引き算の効いてる構成がちゃんと作品に適切な潤滑油として機能してるのもいい。
読みながら、自分なら3倍くらいの尺使わないと書けなそう……とか考えてたので、そういう意味ではめちゃめちゃ羨ましい作品形態である。
追記.最終回以降。
平成香る味付けのお姉さんによる創作論は散文的なようで一貫性がある。
以前記号化が著しい造形と書いたが、通しで読むとASMRを意識した語りや聞き心地の良い言葉を囁く存在として確立されている。
個人感情の勘定の話をすれば、やはり造形自体は好みではないのだが、作品が後半に差し掛かりメタ認知を混じえた物語に姿を変えていくにあたり作品への愛着を演出する手際の良さは巧み
20000文字以内の枠組みでその緩急を作ってるのがすげぇよね。
お姉さんの正体や物語の構造の真相はありがちながら、教える人/教えられる人という同意の下でのある種の師弟関係が”それ”が終わるという切なさを加えているので安直ではない。
問答にも意味があり、地の文も余さず読みたくなるリピート性がある。
一方で締め方がありがちなのは否定出来ない部分で、こういう形で湿っぽく仕立てるところまで含めて既視感のある集大成だったと思う。
てんでばらばらや矛盾に触れる場面があったが、不揃いをどう決着させるかという作品独自の発展も期待していた。しかし総合的にASMRを題材とする文藝賞に相応しい形に持っていくのは凄かった。初回三回はあまり適正でないと感じる内容だっただけに、後半からの追い上げがかなり良い。ジャンルエラーさえなければ賞は取れるんじゃないかと思うクオリティだ。
ロジカルでありながら熱いポイントをしっかり押さえた架空のTCG乙女ゲーム転生小説連載中、秋野てくとさんが繰り出した、作家をダメにする創作論。
フックは作家を甘やかすお姉さんというふんわりキャラクター、中身はそれ以上に甘い甘やかしトーク、だが、ここまでは撒き餌。伏線。
それをロジカルに正当化しつつも、最後に実用的なメッセージで〆る。抵抗感なく受け入れやすい創作論のバ⚪︎ァリン(糖衣A)である(個人の感想です)
やめろー!創作論は人にマウントを取るための道具じゃない!俺と創作論マウント勝負だ!!となりがちな創作論界隈に差し込んだ一条の光なのかもしれない(知らんけど)
今後は長期連載を維持する甘やかしとかあれば教えて欲しい……。