◆同僚(会社員)
それは休日のことだった。
ガタンガタン……
母に頼まれた用事があり、隣の県まで電車を乗り継いで向かっていた。
電車から見える風景は暖かい。
窓の外には、陽の光を浴びて、豊かに育つ緑の芝生が一面に広がっている。きっと空気も綺麗なのだろう。想像すると、駅に着くのが楽しみだった。
しかし、人の気配が全くといっていいほど感じられない事を不思議に思った。
ガタン……ガタン。
到着したようだ。
電車の扉が開き、駅の改札に向かう。
改札に切符を通してホームを出た。改札の横にある窓は閉まっていて、駅員はいなかった。
駅の入り口から外に出ると、近くに閑散とした小さな土産物屋があった。
少し興味があり、入口の扉を開けて建物にに入る。壁一面に菓子類や酒類、キーホルダーなどが陳列されており、地面には割れた蜂蜜酒が転がっていた。予想通り店内は静まり返っており、人の気配がない。
「すみません、誰かいませんか?」
親戚の家までの道を尋ねようにも、人がいないと尋ねることができない。
しばらく待っても誰も出てこなかったので、外に出てスマホの地図アプリを開いた。……圏外である。
母にもらった手書きの地図はざっくり書きすぎてよくわからないので、かなり薄い記憶を頼りに歩くことにした。
青い田んぼが見える道をひたすら歩いていると、遠くに山が見え、空気も爽やかに澄んでいて心地よかった。きっと水も美味しいだろう。そんなことを考えていたが、不意に後ろから肩を抉られ、強い痛みを覚えて地面に倒れ込んだ。
突然の出来事に驚き、慌ててそちらを振り返ると、緑色の腐った人型の生き物がこちらに襲いかかってくる所だった。急いで横に転がりゾンビを回避する。泥だらけになって立ち上がると、来た道を全力で引き返した。
「はあ、ごほっ、はあ……」
駅にたどり着くと、行きに買った切符を素早く改札に通してホームに入る。ゾンビは改札には入ってこれないだろう。遠くから集まってくるゾンビに恐怖を覚え、ひたすらに電車が来ることを願った。
ガタン、ガタン……
15分ぐらい経っただろうか。到着した電車に乗ると、座席に座ってようやく息を吐いた。血だらけの肩を手で抑える。
(ここまで体力がないとは思わなかった。好き嫌いしないで肉でも食べれば良かった……)
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