◆疫病神(隣人の30代女性)

「これも失敗……。」


 私は失敗した試薬を棚にもどすと、大きく伸びをして椅子から立ち上がった。


 相変わらず、目の下にある隈は消えない。


 目の下をさすり近くの引き出しからビスケットを出すと、戻って椅子に座った。


ガリガリ


 保存食の味は味気ない。味だけに

 食事の改善が必要なのかもしれない。

 そう思い、ばりばりとレタスをかじった。


バン!


 ……まただ。


 部屋の窓を見ると、ゾンビが貼り付いてこちらを見ていた。


 ここはもうダメだ。


 窓を少し開けてゾンビに薬品をかけると、ゾンビは溶解して消えて行った。


「……」


 私は、早急に保存食とレタスを用意すると、車に荷物を積み込んで隣の県へ向かった。

 


 隣の県に到着すると、警察の助けを借りてとあるマンションの三階に部屋を確保した。


 私の部屋は角部屋だった。しかし、マンションの隣部屋に住んでいる住民には、まだ会ったことがなかった。


 ある日、材料の買い出しのために外に出ると、マンションの隣部屋に住んでいる住民と鉢合わせた。しかし、その背後には配達員がこちらを陰から覗いていた。


 気づかなかったことにしよう。


 私は挨拶をあえて無視することで、素早く目の前を通り過ぎた。


◆◇◆


 次の日、スーパーで買い物をしていると、マンションの隣部屋に住んでいる住民と鉢合わせた。


「こんばんは、夕飯の買い物ですか?」


 話しかけられたので、こちらも挨拶を返そうとした。


「こんばんは、」


 ふと、言葉をつづけようとして我に返る。


——なんだか、見覚えのある雰囲気があった。


「以前、どこかでお会いしましたか?」


 そう質問すると、数秒後に返事が返ってきた。


「以前、……あなたがマンションに引っ越してくる前のことなら、会ったことないですね。」


 気のせいなのか、今はまだ分からない。


「そうですか、変なことを言ってすみません。しかし、これも何かの縁。これだけは伝えさせてもらいます。“早急に、手遅れになる前に、この町から逃げたほうがいい。”」


 そう言って頭を下げると、買い物かごにレタスを入れて、重い足取りでレジへ向かった。


◆◇◆


 数日後、私はマンションに閉じ込められていた。


 予想外だった。


 この町は既にゾンビに侵食されていたのだ。

 逃げることはできない。


「……」


 今回はゾンビの襲撃がなかった。







 ゾンビは、誰を攻撃していたのだろうか?


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