◆近所の50代男性(警察官)

 ある夕方の7時頃。

 腕の負傷により警察官の仕事を休止している私は、テレビを見ながら妻が作る夕飯を楽しみに待っていた、その時だった。


「ぎゃーーー!」


 近隣の住宅から女性の悲鳴が聞こえる。


 仕事を休止中とはいえ、困っている人がいれば警察官として対応しなければならないと思い、困惑している妻に一言伝えると、急いで警棒を持って外に出た。


 現場は家から二件隣の新しくできた一軒家だった。

 橙色の灯に照らされたリビングらしき場所から窓越しに住民が泣き叫び、窓の外には緑色の何かが貼り付いている。あれは何だ?


 怪我をしている左腕を庇って、警棒を右手に持ち替えながら慎重に近づく。


 そこには、白く濁った目に頭から脳味噌をこぼした、まるでゾンビのような人型の生き物が窓に貼り付いていた。


「ヒッ……」


 思わず数歩後退あとずさるも、思い直し、警棒を強く握る。


「君、そこから離れるんだ」


 窓越しに腰を抜かした住民をなんとか窓から離れさせると、懐から携帯を取り出し、静かに息を吐いて警察に電話をかけた。


「〇〇町の……ゾンビような人型の生物が住宅に侵入……お願いします。」


 現実味のないその言葉を吐いて無理やり携帯を切ると、すぐさま集まってきた住民にゾンビから離れるよう呼びかけた。


 しかし、窓から見えるゾンビの恐怖に耐えられなかった住民はパニックを起こし、扉から足をもつれさせ、勢いよく外に飛び出した。


ガアアア!


 ゾンビが住民に襲い掛かろうとしたその時、警棒でゾンビを横から殴りつけ、ギリギリで住民から離れさせる。


「逃げてください、急いで!」


 当たりどころが悪かったのか、ゾンビは昏倒こんとうして動かないようだ。


 住民が何度も頭を下げ、泣きながら去っていくのを見送ると、微かにパトカーのサイレン音が近づいてきている。


 ……。








 目線を下に落とす












 怪我をして包帯を巻いていた左腕はざっくりと裂け、紅く血がにじみ出していた。

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