第2話 ループ系主人公くん 前編




 どうも、如月きさらぎかなめです。

 現在時刻は放課後なのですが、喉が渇いたので学園内の自販機に寄ってから帰ろうと思ったところで、妙な人を見かけてしまいました。

 場所は学園内の噴水広場。

 クソデカ噴水の前で、一人の少年が膝をついてうなだれています。


 

【失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した】



 ヤバイ──心の底からそう確信した。

 いや本当にやばい。

 先ほどから『失敗した』と書かれた、無数の吹き出しが俺を襲ってる。

 暴走したピッチングマシーンの如く、情け容赦なく吹き出しファンネルで、次から次へと攻撃してきてる。

 他の人間にとっては、視認もできない空気のような吹き出しも、俺にとっては辞書並みの重量を持つ危険物なので、当たったら間違いなく死ぬ。

 というか、こんな場所で何をしてるのだ、彼は。


 見た感じ悲劇の主人公っぽいのは分かるのだが、この噴水広場は人通りが多く、ああやって膝立ちで絶望していると、それはもうすっげぇ目立つのだ。

 アイドルもかくやというほど、周囲の視線を独り占めしてしまっている。

 奇異の目にさらされまくってるよ、可哀想だからやめたげてください。

 だいたい、失敗したというのは、何を意味しているのか。

 吹き出しが出るってことは主人公なのだろうが、そもそも彼は何のジャンルの主人公なのか、まったく見当がつかない。


 

【これで──五回目。何度時間を繰り返しても、何回この日をやり直しても、あの子はヤツに連れていかれてしまう】


【そして俺は力を奪われる。同じだ。結果は全部同じ。過程をどれだけ変えたところで、俺の求める未来に到達することは決してない】


 

 どうやらループ系の主人公だったようだ。

 聞く限り、彼は今日という日をを五回もタイムリープ能力でやり直してるらしい。

 主人公って大変だな。

 同情を禁じ得ない。


「むむむ……」


 しかし、だ。

 関わるとロクな事にならなそうだということは理解しているのだが、流石に往来で打ちひしがれている少年をそのままにしておくことは、精神年齢が一応年上の俺には看過できない。

 せめて人が少ないところで泣いてもらわねば。


「あの、君。だいじょうぶ?」

「……ぇ」

「その制服、ウチの生徒だよね。具合悪いなら付き添うから、とりあえず一緒に保健室まで行こう」


 よしよし、ごく自然な対応ができてるはずだ。

 俺は……アレだ。

 一瞬だけ映るモブ。

 明らかに周囲から浮いた行動を取ってる主人公を見かねて、大丈夫ですか? とちょっと手を差し伸べて、場面転換後にいなくなるタイプの通行人です。


 

【──あぁ、また彼女に助けられてしまう】


 

 もう面識あんのかよクソ。

 前の時間軸の俺、なにしてんだ。

 ……いや、落ち着け。

 俺自身にループ前の記憶はないが、きっとその時も同じようにこうして声を掛けただけに違いない。

 本格的に関わったら面倒な事など、自分が一番よく分かっているはずだ。

 一周前の俺だとしても、結局は俺なのだから、必要以上の接触はしないという冷静な判断をしてくれているに違いない。



【かなめ。如月、かなめ。どの世界線でもオレを見捨てずに助けてくれる、唯一の味方】



 助けすぎィ! 別の世界線の俺マジでなにしてんだよ……。

 何だ、アレか。

 俺とこの男子は、因果関係で繋がってるとかそんな感じなのか。

 どんな状況でも俺が助けに来てしまうパターンなのか。

 この子に巻き込まれて、俺が死んだ世界線とかもありそうで怖い。

 ──待ってほしい。もしかして俺、ヒロインだったりするのだろうか。

 勘弁してください。

 


【オレを励まし、オレを受け入れ、オレと繋がってくれた人】


 

 こ、これはまずい。

 ループ前の俺、メス堕ちしとる。

 タイムリープ系は初めての遭遇だが、まさかのエロゲタイプか。

 俗に言う天敵というやつだな。

 冗談じゃない。メス堕ちなど望むところではない。

 既に中身は男なんだと割り切ったあとなのだ。

 いまさら女の子にクラスチェンジしてたまるものか。

 ていうか、ルート次第じゃこの男の子と体の関係を持ってしまうの、あまりにも怖すぎるな。

 俺ってそんなチョロいのか。チョロインなのか。


 これはもう助けるなんて言ってる場合ではない。

 いますぐこの場から逃げなければ──


 

【だが、もう彼女を巻き込むワケにはいかない。オレ一人でなんとかしなきゃならないんだ。たとえオレは死ぬことになったとしても──】


 

 ええぇぇ待て待て待て早計過ぎるって。

 死ぬのは流石にダメなんじゃないかな!


「待って!」

「……き、如月?」

「話は聞くから、死ぬとかやめて……」

「お前、まさか記憶が──」


 いや、無いけどね。



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