第9話 青年向けダークファンタジー主人公くん
今日は全校生徒参加の球技大会です。種目はドッジボールだそうで。
ウチのクラスのみんなもやけに張り切っていて、熱い闘志で一致団結した結果一試合目は見事に突破した。すごい。
しかしウチのクラスメイトである睦月ラブコメくんは、なぜか現在別のクラスの試合にも駆り出されている。ラブコメ主人公は大変だな。
で、今は別のクラスや学年の試合中なので肝心の俺は暇だ。
というわけで体育館の隅っこに座りながら暇つぶしをしている。
【昨日は本当に大変だった】
【あの魔王候補との戦い、まさか深夜まで続くことになるとは……】
隣にいるツンツン頭の男の子からティッシュ箱程度の大きさの吹き出しがポンポン出てきてるので、俺はそれを積み木みたいにして遊んでるのだ。たのしい。
俺とツンツン頭くんは別のクラスだけど、お互いに試合開始がまだということでこうして二チームとも近くで休憩していため、今みたいに隣同士で座っているという状況が生まれているわけだ。
他の生徒たちは仲良さそうにお喋りしたり購買で買ってきたお菓子を食べたりしてる中、ツンツン頭くんはひとりで体育座りをしながら物思いに耽っている。
【しかし、ヤツを殺した事で、これで残りの魔王候補はオレを含めて5人】
ぽんっ、と。
【この調子でいけば魔王選別戦を勝ち残って魔界へ帰れる。】
また出てきた。
積み木というよりテトリスみたいになってきたな。
【正直魔王なんて称号には興味ないけど、人間界を蹂躙することで悪魔としての格を上げようとする他の魔王候補を放っておくことはできないし、オレは必ず候補全員をぶっ倒す】
【強制参加させられたこの選別戦を終わらせて魔界に帰還したいのもあるけど、なにより母さんがいたこの人間界をオレは守りたい。大魔王のクソ親父や他の悪魔たちの好きにさせるワケにはいかないんだ 】
うーん、ちょっとサイズが大きくなってきたな。
これくらいデカい吹き出しが揃ってれば階段とか作れそうだ。積み木はやめて階段を組み立てよう。
よっ……むむ、持ち上げるのに苦戦する程度には少し重くなってきた。内容が濃い分吹き出しの重量も増すのかな。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
ちょっと大変だけどなかなか良い暇つぶしになってる。誰も見てない隅っこだからできる遊びだ。
ツンツン頭くんは考え事しててコッチ見てないし、どんどん積み上げていこう。
……なんか公園の砂場で遊んでる子供に戻った気分。
【『魔女』と呼ばれる強力な存在を復活させようと裏で暗躍していた魔王候補や、特殊な能力を持った人間を集めて悪だくみをしている組織に関与していた候補も潰した。残ってる魔王候補たちも強力な敵なのだろうが、オレは絶対に負けない。 】
でっか。この吹き出しすっごい大きい。コイツで下の不安定な部分を支えよっと。
【人間と悪魔の混血であるオレはどっちつかずの半端な存在だけど、それでもオレはヒトを守る! それが母さんとの約束なんだ──! 】
ありゃ、細長いタイプか。これは使えそうな箇所がないなぁ。
まぁでもいい感じの階段ができたぞ。俺って建築のセンスがあるのかも。
登ってみよう。
「おっ、ぉ……うおぉ、めっちゃ安定する」
ツンツン頭くんの生み出した吹き出しはなかなか優秀で、形もよかったのでグラつくこともない。建築向きのとっても良い素材だ。マイクラやってる気分だった。
というか俺の建築センス自体が抜群なのでは? すごい! かなめさん天才! よっ巨匠!
「ついに俺は天に立ったぞ。わはは」
【それに──あれっ? 】
【お、女の子が宙に浮いてるゥーッ!? 】
やべっ、気づかれた。さっき笑ったせいかな。
……いや、でもこのツンツン頭くんはファンタジー世界の住人だ。
ヒトひとりが宙に浮いてる(正確には吹き出しに座ってる)程度のことなんて、あまり問題視はしないでしょ。
な、何だ一体!? あの子からは魔力も特殊エネルギーの類も一切感じない! 彼女は正真正銘ただのヒトだ! そんな子が何で空中浮遊できるんだ!?
いやめっちゃ驚かれてるわ。流石にやめとこう。
いつもならこんな事しないんだけど……待ち時間が暇すぎて、どうかしちゃってたな。
ツンツン頭くんにまじまじと見つめられながら、俺はゆっくりと自作階段を降りていった。
◆
「……というわけなの」
「そ、そうなんだ……」
階段から無事に降りた後、ツンツン頭くんに体育館裏に連れ込まれた。変な意味じゃない。
そして当然質問責めに。説明がいろいろと面倒くさい状況なので、俺はとりあえず『目に見えないとある物体に触れることができる』というていで話を進めた。間違ってはいないし。
まさか俺の秘密(の一部)を最初に明かすのがこの男の子になるとは思わなかった。
独白の内容からして別世界からきた主人公なんだろうけど……ほんと何でもありだなこの世界。
「えっと……きみ、名前は?」
「如月かなめ。あなたは」
「オレは文月浩太だ。コウタでいいよ。……如月さん、君だけにしか触れないモノがあるのは分かったけど、あぁやって人前で遊ぶのはよくない。見たのがオレだけだったからよかったけど……」
めっちゃ正論。ぐうの音も出ません。
「ゴメンね、浩太くん。気遣ってくれてありがとう」
「それはいいけど……今後は気をつけてね」
「わかった」
最近変わった人たちとばかり関わっていたせいか、感覚が麻痺している節があるな。
今一度冷静な──そう、クールな傍観者である如月かなめに戻らなければ。
「──かなめっ!」
声が聞こえたと思って後ろを振り向くと、建物の陰から魔法少女こと水無月ユリちゃんが出てきた。
実は連絡先を貰ったあの日から何度か一緒に遊んでいて、いつの間にか彼女からは下の名前で呼ばれるようになった。女の子の友達ができたみたいでちょっと嬉しい。
「大丈夫!? 何かされた!?」
「だ、だいじょぶです。少しお話をしてただけですからっぁ、っうわぁ」
駆け寄ってきたと思ったら俺の肩を掴んでグワングワンと揺らす水無月──ユリ先輩。
見ての通り彼女は心配性な人物だ。いつもの暗い雰囲気も俺が関わるとすぐに吹っ飛んでしまう。
これまでの戦いで大切な人たちを失ってしまった子だから、久しぶりに関わり合いを持った俺を強く心配してしまうのは、しょうがない事なのだろうけど。
「あれ、水無月先輩?」
「ムッ──……あぁ、文月くんだったのね。ごめんなさい、気づかなかった」
二人って知り合いだったのか。
「彼がよくウチのコンビニに来るってだけよ」
「つ、冷たいなぁ。前にプレイヤーの追跡を手伝ったじゃないです──」
浩太くんがソレを言いかけた瞬間、ユリ先輩は即座に俺から離れて彼を後ろから羽交い締めにした。
(ば、ばか……! アタシが魔法少女ってことはかなめには秘密なの! プレイヤーのこともッ!)
(えぇっ!? そ、そんなの知らない……)
本人たちはヒソヒソ話してるつもりなんだよね。でも丸聞こえなんですよね。主人公たちってみんなこうなのかな……。
にしてもこの光景は異様だな。どっちも吹き出しが見えるってことはお互いに主人公同士ってことなんだろうけど、こうしてじゃれあってる様子を見るとユリ先輩が浩太くんのヒロインみたいだ。
よっ、ツンデレ!
(かなめが生温かい目で見てる……なんで……)
(いっ、いいから離してくださいよぅ! ……ぃ、いろいろ当たってるし……)
あら^~。浩太くんったら顔赤くしてかわいいねぇ~。ユリ先輩も全然気づいてない辺り鈍感ねぇ~。
イチャコラしてる光景を見せつけられてるこっちの気持ちにもなってください。
──と、こんな感じで体育館裏でワチャワチャしている間に試合が始まってしまい、俺たちは見事に遅刻して怒られたのであった。これからは吹き出しで遊ぶのやめよう。
主人公が多すぎる バリ茶 @kamenraida
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