第8話 魔法少女カードゲーマー主人公ちゃんともう一人




 

 時刻は夜の九時。なんとか初日のバイトは乗り切ったので、現在は卯月先輩と水無月先輩の二人と一緒に歩いて帰ってる。

 

 あのあとは敵が見つからなかったこともあって(元々存在しないが)、一時間後に仕事を再開してそのまま普通に終わりまで働いた。なんとか店長には奇行の数々を隠し通せたようで安心だ。

 

 ──それからもう一つ。

 

 

「なるほど……他の人間に擬態することもできるってワケか」

「そうなの。でも必ず共通してる特徴があるわ。それで普通の人間との区別ができる。まずは──」

 

 

 なんか先輩二人は仲良くなってる。

 いや、そんなホンワカした表現だと語弊があるかな。協力関係を結んだというか、仲間になったというか、距離が縮まったというか。

 

 謎の敵に狙われてる(と二人は思っている)俺を見かねて、先輩方は今までお互いに隠していた秘密をさらけ出し、情報共有をして敵の予想を立てつつこの俺を守ることに決めたらしい。

 卯月先輩は特殊能力者たちの特徴を教え、水無月ちゃんはプレイヤーの生態について解説している。

 二人とも俺より数歩後ろの、少し離れた場所で。

 本人たちは俺に隠れてコソコソ話してるつもりなんだろうけど、なんというか……丸聞こえだ。二人ともそういうのに鈍感なところが妙に主人公っぽい。

 ……あっ、俺の家。

 

「あの、先輩方!」

「「っ!?」」

 

 俺が声を掛けると、二人してビクッと肩を跳ねさせた。よほど話し合いに熱中していたのだろう。

 

「か、かなめちゃんどうしたの?」

「えっと、もう家の前なので。お二人とも、今日はありがとうございました」

 

 玄関の前に立ってペコリと頭を下げると、二人はポケットからスマホを取り出して俺に詰め寄ってきた。ちょっと顔が”マジ”で怖い。



【水無月ユリの話によれば、この街の脅威は能力者だけではなかったらしい。かなめちゃんが狙われる理由が分からない以上、アリサや玲奈にもこの事を話してより一層警戒を強めなければ……! 】

 

「いてっ……」

 

【卯月空斗の話は興味深いものだった。もしも如月さんが能力者とプレイヤーの両方に狙われているとすれば、アタシはもう一度魔法少女として戦わねばならない。もう二度と目の前で誰かを死なせたりはしないために──! 】

 

「うぐっ。ぉ、おも……っ」

 

 二人分の吹き出しが襲ってくるぞ! あとこれなんかヤベェ具合に思い違いが発生してるけど、二人ともめっちゃ真剣な雰囲気すぎて、なんかいろいろと言い出しづらいぞ!

 

「これ僕の連絡先。なにか困った事があったらすぐに電話かけてね。怪しい人とか見かけたら、特に早く」

「は、はい」

「こっちはアタシの番号。メッセージでもいいけど、急を要するようなら電話をかけて。なるべくすぐに出るから。それから虹色に発光するカードを持ってる人に出会ったらすぐに逃げて、かまわずアタシに電話してね」

「わかりました……」

 

 言うだけ言ったら二人はまた密会をしながら、俺の家を離れていった。

 

 

 ……どーしよ。

 気がついたら誤解の嵐だ。本当は二人の吹き出しに俺が負けてただけの話なんだけど。

 

「……まぁ、あとでしっかり話せばいいか」

 

 呟きながら家の中へと入っていく。今日はバイトで疲れたのであんまり考え事はしたくない。

 まぁ、ついに『吹き出しが見える』という俺の秘密を他人に話す機会がやってきた──というだけの話だろう。

 

 二人にはちゃんと秘密を明かして誤解を解いてあげないと、余計な気苦労を背負わせてしまって可哀想だ。いずれ必ずやろう。

 でも今日はなにもしない。疲れたので風呂入って眠るのだ。

 面倒な事はぜんぶ明日の俺に任せた。たのむぞオレ!

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