第3話 ループ系主人公くん 後編
どうも、如月かなめです。
現在時刻は放課後なのですが、喉が渇いたので学園内の自販機に寄ってから帰ろうと思ったところで、妙な人を見かけてしまいました。
場所は学園内の噴水広場。
クソデカ噴水の前で、一人の少年が穏やかな眼差しで俺を見つめているのです。
……えっ、なに。こわっ。ストーカー?
【やっと。やっとだ。ようやくたどり着けた。オレは成し遂げたんだ】
吹き出しが視認できた。
あいつ主人公か。
ストーカータイプの主人公と遭遇するのは初めてだが、これって今すぐ逃げた方がいいのだろうか。
いや、しかし確定したというわけでもない。
もう少し様子を見てみよう。
【かなめ──きみのおかげだ】
俺のおかげらしい。
全くもって身に覚えがない。
【何度タイムリープをしても、いつ如何なるときもオレに手を差し伸べてくれたきみのおかげで、ようやく答えを得ることができた。望む未来を手に入れられた。
──もっとも、この世界の君は、そんなことを知る由もないのだが】
いま知りました! あの男の子は何回もタイムリープしていて、何回も俺が助けてあげたんですね? やるな俺~っ! えらい!
なるほど、理解した。
つまり彼は悪質なストーカーというわけではなく、一周前の俺を知っている主人公だったというわけだ。
そこで俺は、お助けキャラとして彼に協力していた、と。
主人公で溢れるこの世界では、時空間を遡る人物がいたとて不思議ではない。
そこで俺が彼に手を差し伸べることになったのも、何かの縁なのだろう。
【思えばかなめには迷惑をかけてばかりだった。前回だって噴水の前で絶望していたオレを周囲の目を気にして保健室まで連れていってくれたりだとか、なし崩し的に事件解決に協力させてしまったりだとか……本当に頭が上がらない】
よいよい、感謝されるのは嬉しいけど謝罪は不要だ。
実際いまの俺は何もしていないのだから。
だが、まぁ、良いことするってのは気分が高揚するな。
グッジョブ、一周前の俺。帰るまえにケーキでも買って、自分を労ってやろうではないか。
【それに──あの唇の感触も、未だに脳裏に焼き付いて離れない】
妙な吹き出しが出てきたな。……唇の感触?
【最後のタイムリープを行うその瞬間に、彼女からしてくれたキス──これから先の人生でアレを忘れるときはきっと訪れないだろう】
おいおいおいおいメス堕ちしてるぞ俺どういうことだ。
……まて。待て待て。
協力するってのはわかる。スゲーよく分かる。俺は困ってる人を見かけたら身の丈を考えずに声かけちまうタイプだからな。
偽善者と言われても否定できないが、困ってる彼を見かねて助けに入る俺の姿は容易に想像できるというものだ。
だ、だが『キス』って部分はどういう事なのだ。
中身が男の女である俺が、よりにもよって男子にキスなんかするか!
あと『彼女から』って部分が納得いかない。
それだと俺がお前に惚れてて、別れを惜しんでキスしたみたいじゃないか。
ナメやがってそのセリフ超イラつくぜ。
「うっ、うぐ……!」
動揺で膝をついてしまった。
これが本当の精神攻撃というやつか。
「かなめっ!?」
おいおいおい寄るな。
この世界じゃ初対面だぞ。わぁやめろこっち来んな!
「大丈夫か、かなめ!」
「ヒッ……!」
逃げなきゃッ!
「お、お構いなく! わたしは大丈夫ですから! じゃあっ!」
「え……まっ、かなめっ──」
呼び止めようとする彼を振り切り、俺はその場を駆け出した。
たとえここが彼にとってのトゥルーエンドの世界線だとしても、俺からすればそんなことは一ミリも関係ない。
残念ながら、奇跡的に別世界線の記憶を取り戻して、感動の再会をするだとか、そのようなエンディングは存在しないのだ。
ビターエンド上等である。
キミは俺に嫌われつつも、誰かを救ったことを誇りにして生きてくれ。
「はぁっ、はぁっ……」
逃げた。
俺は逃げた。
彼の前から姿を消した。
「俺は、悪くない……」
そうだ、俺には何も関係ない。
俺は彼の知る物語を体験していないのだから。
故にこれでいい──そう、思っているはずなのに。
どうしてか罪悪感を抱いている。
彼に対して、このままでは良くないと、心の中で理解してしまっている。
「……うぅ~」
逡巡の後、考えを改めた。
あの場へ戻り、心配してくれたにもかかわらずそそくさ逃げたことに関してぐらいは、謝罪しようかと思い至った。
流石に知らない男子と感動の再会ができる程、ヒロインとしての覚悟はないので、本当にただ謝るだけ。
今後も顔見知り程度に収めれば大丈夫なはずだ。
よし、戻る。戻ろう。それで謝ったら帰ろう。
彼も主人公なのだし、ここまできっと頑張ってきたのだ。
別の俺とはいえ、やはり如月かなめが関わったののも事実。
うやむやにして終わりというのは、いささか寝覚めが悪いというものだ。
「あ、いた」
まだ噴水広場のベンチに座ってる。
緊張する胸を叩いて、無理やり鼓舞する。
謝るだけだ。すぐに済むのだ。
こんなもんさっさと終わらせて帰ってやろう。
【かなめには嫌われてしまったが、これはきっと今まで彼女を巻き込み続けた、罪深い自分自身への罰なんだ。潔く諦めよう】
【それに──この子を助けることができた。いまはそれでいい】
──あの男の隣に、ショートヘアのロリっ娘が座っている。
「よかったの? あの子、ループ前は恋人だったんでしょう」
「恋人じゃないさ。……それに、全部なかった事なんだ。覚えてるのはオレとお前だけ。俺たちが口外しないかぎり、この世界じゃ何も起こらなかったし、あの子もオレとは関わっていないも同然だ」
悟ったような顔で、ロリに語り掛けている。
「それでいいの」
「あぁ。いいんだ、それで」
「……そっか。じゃ、もう帰ろ」
「そうだな。オレとおまえの家に──帰ろう」
二人で手を繋いで、ゆっくりと噴水広場から離れてゆく。
彼らの家が待つ方へ。
帰るべき場所へ──二人で歩んでいく。
いや、俺以外にもヒロインいたのかよ!
死ね二股野郎‼
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